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「な…何事です!? 無礼ですよ、あなた方。陛下の御前にかような魔法の術でいきなり出現するなどと」

かなり憤慨した様相で王妃グィネビアは鋭い叱責の言を飛ばす。さしずめ怒号の印をこめかみに浮かばせて、カーッと怒り心頭のご様子といったところか。

どうやら何の前触れもなく唐突に自身の目前に出現した下々の身分でもある一行に対し、紛れもなく不快感が募ったようだ。

「ガルオン」

「は、はいっ。グィネビア様」

「あなたは仮にも宮廷付き専任薬師、しかも長として人を束ねる立場にある御身。だのになんたる愚行を働くのですか。心底、失望に値しますよ」

「も、申し訳ございません。お怒りはごもっともですが、しかしもはや一刻も争うといいますか、猶予なき事帯にございまして……」

「言い訳は見苦しいですよガルオン。下手に繕うくらいなら直ちにここから、陛下の寝所を出てお行きなさい。それがあなたに課せられた唯一の責務に他なりません」

「あー、そらぁちっと待ってくれますかね。そのぉ、お言葉ですが王妃様」

 グィネビアの怒りをまあまあと鎮め、ガルオンに助け船を出そうというのか、バレリアンがややのんびりした調子で口を挟む。

「何ですかバレリアン。あなたもガルオンと同罪ですよ。王宮騎士団の長たるあなたが率先して宮廷内の風紀を乱すなど、部下に対して何ら示しがつかないではないですか」

「はあ、風紀ッスか……。ですがね、グィネビア様。この現状、火急の非常事態ッスよ。我が国が今しも滅ぶか滅ばないかの瀬戸際だっつーのに、風紀もへったくれもありゃしませんっての」

 平気も平左の顔のままバレリアンはしれっと返す。語気を荒げてけんもほろろに厳しく言い募る妃殿下に対し、ちっとも堪えてなどないようだ。

 仮にも一国の主、国王陛下並びに王妃殿下の御前である。だのに遠慮会釈なくずけずけと、かなり砕けた物言いをする臣下は、宮廷内広しといえども彼くらいなものだろう。

「――ところで、あなた」
「は、はいっ」

 先の二人はもとより、見知り置いた顔ぶれの中に何故か一人だけ、年端もいかぬ少女が紛れている事実にグィネビアは目ざとく気づいたようだ。

 ティーナの姿を頭のてっぺんからつま先までを一通り胡散臭そうに眺めた上、眉間に皺を寄せてじとりとねめつける。

「見たところその制服はロータスの魔法学院の物のようですね。学生の身分であるあなたが病身にあらせられる国王陛下の御前に一体何用で参ったというのですか」

「あ、あの……。あたしは、その」

(この方が王妃様……。ラズリのお母さん)

 ラズリをはじめ、三人の姉姫である王女をりっぱに育てあげた上、既に二人の姉姫を強大な他国へと嫁がせた手腕を持つ妃殿下は、未だ若く美しく聡明で、気高い様相を呈している。

(それから、あちらが国王陛下……。ラズリのお父さん)

 王ジェラルドは床に伏せてはいるが、眠ってはおらず、枕に頭を沈めたままの状態でこちらをじっと静かに凝視している。陛下のご容体は日々芳しくなさそうだという、巷の噂通りのお姿であったことにティーナは今更ながら自身の目でしかと事実確認させられ、しくりと胸を痛める。

 王は一連の対応を王妃に全て委ねており、自らはただの一度として声すら上げようともしない。いやそれどころか、身を起こすことさえ既にままならぬと見受けられる。時折、周囲に漏れ伝わるぜいぜいとした息遣いがその病状の重さをつぶさに伝えているのは実に明白。

 故にティーナはこの場にいるのが実にいたたまれず、王妃の言う通り即座に退室した方が良いようにも瞬時にして思わせられるのだ。

 王の側近でもないティーナの如き全くの部外者が、王の寝所に詰めかけているだけでも彼にとっては相当の精神的苦痛の種であり、ひたすら負荷を与えている要因に他ならぬのだから。

「……ィネ……ビア」
「は、陛下。おそばに」

 か細い声が枕元からしだした途端、血相を変えて王妃はそちらへと寄る。

「そんな型どおりに…畏まらなくても良い」
「し、しかし……。それでは王宮内の規律というものが」
「構わぬ。堅苦しいのは元来、性に合わない質だよ。それに……所詮こんな成りだからね、私は」

 臥した我が身を揶揄するのか、ジェラルド王は弱々しげな微笑みを唇に浮かべる。

「おお、なんと…。久しいな、ドラゴ。君も来ていたのか」

「ああ。しかし、しばし見ない間に一体どうしたというのだおぬしは。かように命を風前の灯と同化させるとは、今の今までついぞ知らぬことであったぞ我は。空の瞳を持つ、かけがえのない我が同朋よ」

 げっそりとやせ細り、こけた頬とやつれた様相を人前に晒す王・ジェラルド。
 かつては国随一の魔法使いの手だれとして筆頭に立った存在でもある。いわく二十年前などは率先して兵を率いて民草を守るだけでなく、他の高名な宮廷付き専任魔法使いたちと共に国の威信をかけた魔族との戦いに身を投じていた輝かしい経歴を持つ。

 だがそんな数々の勲しに名を馳せた彼とて、今ではすっかり年老いた身の上である。病の床にてやつれ果て、命の燭をじわじわと先細りさせているだけの存在になり果てている。過去の英雄の見るも無残なその姿は、いかに先の大戦での代償が大きかったことかと、己が身でもって現実たらしめているかのようだ。

「お、お初にお目にかかります、陛下」

 問われる前に一歩、前進しティーナは自ら名乗りを挙げる。何せ風雲急を告げる異常事態だ。とにかく事を急がねばなるまい。ほんの少しの暇でも陛下のお身体にお障りなきようにと願う、ただひたすらその一心で。

「私はティーナ・アルトゥンと申します。宮廷付き専任薬師長を任ぜられておりますガルオン・ドゥメ・アルトゥンの娘にございます」

「ほ、ほ。そうか。君が……。ロータスの小さな魔法使いの卵くん、して何かな」

「はい。今日は、陛下にお尋ねしたい議がございまして参りました次第であります」

「うむ。なるほど。では、君の話を聞こう」

 ティーナに一瞥をくれた後、王は眦を幾分下げ、弱々しげながらもほのかな笑みを浮かべてうなずく。

 だがそんなジェラルド王の言葉を聞きつけ、すぐさまグィネビア王妃は異を唱えだす。「陛下、それは」と無理やり二人の会話に割って入ろうと口を開きかけてまで。

 だが王はそれをやんわりと手で制し、ティーナに先を続けるよう促すのだった。

「いや、構わぬ。我が国セレスト・セレスティアンの王として、ジェラルド・セイル・ファーデムの名において汝の奏上を許す。申してみよ」

 王としての立場からの正式なる許諾の意を唱えられては、さすがのグィネビア王妃もこの場は引かざるをえまい。我が身を弁えてぐっと口をつぐみ、ジェラルドとティーナの会話の邪魔にならぬよう、数歩後退し恭しく頭を垂れた。

 一方、王にとってテイーナの来訪はいたく感慨深く、無性にこみあげるものがあったようだ。彼女はロータスの生徒である。例え性別は違えど、年齢や背格好及びその制服姿はいたくなじみを覚えるのはこの際否めない。

 彼女の強い意志に満ちたまなざしや、年の割にしっかりした口調は、今ここにはいない自身のたった一人の子息、嫡子でもあるラズウェルト王子の姿と相まり、感極まるほど胸に迫るのだから。

「あ、ありがとうございます」

 自身の予想を遥かに超えた王の真摯な対応に多少なりとも戸惑いは隠せず、ティーナはやや言いよどむ。だがしかし、この好機をみすみす逃してはならぬものかと心を入れ替え、間髪も挟まず先を続けた。

「では、お尋ねいたします。どうか、陛下に教えていただきたいのです」

「……? 教えるとは、さていったい何をかね。聞かせてもらおうかティーナ・アルトゥン。ただし、私が知りうる限りのことでよければの条件つきだが」

「――はい、二十年前の真相を、です」
「二十年前……? それは」
「そうです。先の妖魔との大戦において、です。陛下と、セシリア様の御身に一体何が……」

「はっ。笑止! そんなチンケなことを聞くためにのこのことこんなトコまで来やがったのかテメーらはよぉ」

「……っ!?」

 王と対峙したティーナの質疑は最後まで続けられることはなかった。彼女の台詞に被るが如く、いきなり暴言が吐かれたからである。

 穏やかながらも威厳のあるジェラルド王の声とは似ても似つかぬ下卑で粗野な響き。
 全くもってこの場においてひどくかけ離れた乱暴な物言い。

(今の声は、いったいどこから……?)

 慌ててティーナは周囲を注意深く見渡す。だがそんな彼女の耳朶に突如としてグィネビア王妃の金切り声がつんざくのだった。

「陛下…っ!? そ、それはっ」

「ああん? ンだとぉ? こちとらテメーら呼ばわりされる謂われなんかねえぞ。おめぇこそ何モンだ!? いいかげん名乗りやがれ」

 続いてガルオン、バレリアンらの声が上がる。そして、“それ”を目の当たりにしたティーナは咄嗟に「ひっ」と声を飲みこみ口元を手で抑える。

「人も土地もみんな食らい尽くしてやる。全てを無に返してやる……っ!!」

 ――そう、一堂に会した彼らは見たのだ。

 王の耳下、首の根元周辺にいきなり突出した腫瘍を。

 かなりいびつで歪んではいるが、どう見ても人の面相としか言いようのない掌大の異形の物体を。

 目と耳と口と鼻とをそれぞれ有する、人面疽を――。

「……へ、いか」

ふらりと足元をおぼつかせたかと思うと、顔面蒼白となったグィネビア王妃はその場で意識を遠のかせて後ろ向きに倒れ込んだ。


結の章:8へ続く……

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