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お久しぶりです、藍川です。
大変長らくお待たせしました!やっとこ「転の章・3」をアップ致します。
今回あらすじはすぐに決まったものの、なかなか進まずこんなに時間が経ってしまって申し訳ありません。


今回はラズリが活躍する章となっております。
予告していた「ラブコメ」テイストになっているかは…ちょっぴり不安ですが、お楽しみいただけると幸いです(^^)

* * * * *

「アガシ…一体どういうことなんだ。思い出せない、わからない、見当もつかない、それだけで納得できるわけがないだろう!?」
 一刻も早く問い質したい気持ちと、急いてはいけないという気持ちが交錯する。アガシが嘘をついているとは思わない。けれど結局アガシを責めるような口調になってしまう。アガシは表情を歪めると、悔しそうに呻いた。
「だから……!わからへんて言うとるやろが」
 ラズリの言葉を遮るように声を上げると、両の手で頭を抱え込む。
「わいだって訳がわからんのや。……こんなこと、今までにない」
「もしかして、憑依を何度も繰り返した影響で、とか?」
 ラズリも今度は語調を穏やかにして訊ねる。これ以上アガシを追い詰めてはいけない。自分にそう言い聞かせながら。しかしアガシはラズリの質問に「いいや」と強く首を振る。
「それは違う。憑依の魔法は完璧や、それに問題はあらへん」
 ここだけはやけに自信ありげに答えるものの、すぐに眉を曇らせる。
「…………ラズリ、ちいと待って貰えんか」
 額に手をやりアガシは俯く。黒くてくせのない髪が、さらりと彼の頬を覆う。
「わいだって思い出そうと、一刻も早よう思い出したいと思うとる。さっさと思い出してしまわんとって思うとるんや……」
 堅く目を閉じ、疲れ切ったように青ざめたアガシの表情には、いつものふざけた様子は微塵もない。アガシは本当に覚えていないのだろう。
 ラズリはこれ以上彼を責め立てるような言葉を紡がないよう唇を噛む。気がつくと無意識にシャツの下にある守り石を握り締めていた。
---ティーナ。
無意識のうちに呟いていた。彼女は無事でいるのだろうか。アガシがこんな状態になっていて、何もないと思う方が難しい。だがもし彼女の身に異変があれば、この石が何らかの反応を起すだろう。手のひらの中にある石はラズリの体温でほんのりと温かいだけで、いつもと何ら変わりない。しかし、それだけでは彼女が無事だという確証にはならない。思わずラズリは手のひらに食い込むほど守り石を握り締めた。
 ---このままでは堂々巡りだ。
 肝心のアガシがこのままでは埒が開かない。それに彼をこれ以上追い込んだところで、どうにもならないことくらいわかっていた。
 それにアガシのそんな弱りきった顔は見たくなかった。アガシだっての人間なのだから落ち込んだり悩んだりすることもあるだろう。勝手だとは思うが、アガシにはどんな時も能天気で莫迦みたいに自信たっぷりでいて欲しかった。
「アガシ」
「ああ…何や」
 気の抜けた返事をするアガシの頭に軽く拳をコツンと当てる。驚いたように顔を上げたアガシに、ラズリは憮然とした表情を向ける。
「なんて顔してるんだ。お前らしくもない」
「ラズリ……」
「起こってしまったことは、いくら悩んでも仕方ないだろう。少し落ち着け。焦ったところで事態は何も変わらない」 
「……ほんまやな」
 アガシはまだ痛々しさの残る笑顔を浮かべた。
「せやな、確かにこんなしょぼくれとるのは、ホンマわいらしくないわ」
 まだ本調子とは言えないが、いつものアガシが垣間見えてラズリは安堵した。
「まったくだ」
 お互い顔を見合わせると苦笑する。ラズリも肩を並べるようにベッドに腰を下ろすと、考え込むように両手を握り合わせた。
「…整理しよう。順を追って思い出していけば関連付けて思い出せるかもしれないだろう? それにお前の行動の流れから何が起こったのか推測することもできる」
「さすがラズリ。冷静な意見や」
「今更慌てても仕方ないからな」
 そうだ、慌てても仕方がないのだ。ファルナトゥからこんなにも離れたロータスにいる自分ができる事などない。
 もっと力があれば。ラズリは食い込むほど拳を握り締める。
 魔法という力を得れば何でもできると思っていた。しかし、いくら学院で讃えられるほどの成績を残したとしても、まったく意味がなかったのだと思い知る。
 優秀な成績を修めたから何だというのだろう? この学院という狭い世界の中で、もしかしたら奢っていたのかもしれない。こんなにも何もできないでいるなんて。空を飛ぶことはおろか、ひとりの少女を守ることもできないなんて。
「ラズリ、お前なんちゅう顔しとるか自分でわかっとるんか?」
 ごちん、と今度はアガシがラズリの額を小突く。突然のことにラズリはびっくりして瞬く。
「まるでこの世の終わりみたいな顔やで」
 そんな顔をしていただろうか? ラズリが顔をしかめると、アガシはしみじみと呟いた。
「まさかお前がここまでティーナを心配するとはなあ……」
「別に、そこまで心配なんか…」
「こんな面したラズリを見たら、ティーナはどう思うやろな」
「なっ……!」
 何故だかよくわからないが急に頬が熱くなるのをラズリは自覚する。取り繕う間もなくアガシは続ける。
「喜ぶやろーなあティーナ。いっつも冷静沈着なラズリが自分のことが心配で心配でたまらないっちゅう顔しとるって知ったらなあ~」
「お前っ! 余計なことを言わなかっただろうな?!」
 思わずアガシの襟首を掴み上げる。けれどアガシは慌てる様子もなく、薄ら笑いを浮かべるだけだ。
「さあねえ。わいはティーナの喜ぶ顔を見るためだったら何を口走るかわからんし……あ!」
 突然思い出したようにアガシは叫ぶと、ラズリの肩をがっちりと掴む。
「せや……わい、ティーナに………あー、あー思い出してきよったできよったで!」
 嬉しそうに声を弾ませながらラズリの肩をばんばんと叩くと、自分の襟首に掛かっていた手をやんわりと振り解いた。
「行き成り核心に触れようとするからあかん。順をおうて思い出してみな」
 勢いに押されてラズリは頷いた。アガシが調子を取り戻してきたのはいいとしても、一体何をティーナに話したのかの方が不安になってきた。
 アガシは目を閉じると、長い指で自分の顎を何度も掴んだり離したりを繰り返す。顎の皮がいい加減伸びてしまうんじゃないかと心配になる頃、アガシはぴっと人差し指を立てた。
「まずファルナトゥに着いたことは確かや。で、離宮におったむくむくの白猫に憑依して」
「憑依、して?」
「……ティーナに会うた。うん、間違いない」
 ラズリは固唾を飲んで次の言葉を待つ。だがアガシは話を続けるでもなく、ぼんやりしていたかと思うと力が抜けたように再びベットに横たわる。
「おい……アガシ?」
 どうしたのだろうと不安げに見守るラズリをよそに、アガシは枕を抱えてうっとりと呟く。
「いやあ…案外着痩せするタイプなんやな~。もう少し肉を付けた方がいいと思っとったが、いやいやどうして。あれだけのボリュームがあれば、わいは十分やなあ……」
 人が真面目に聞いていると思えばこいつは。枕を何に見立ててか、いとおしそうに頬擦りしているアガシに殺意に似た感情を覚える。アガシにのしかかるようにベッドの上で四つんばいになると、至近距離からアガシを睨みつける。
「お前は……! 一体ファルナトゥに何をしに行ったんだ?」
 凄みを利かせたラズリの声色にアガシは慌てて取り繕った。
「冗談やて、冗談。いやティーナが思っていたよりグラマーだっつうことは冗談じゃのうてホンマやけど」
「アガシ!!!」
「ああもう、冗談がわからんやっちゃなあ~」
 ラズリの呪縛から逃れようとベッドから転がり落ちると、まあまあと宥めながらも後ずさりする。
「スマン、スマンって! ほらこの通りや、堪忍してや~」
 とうとう一番端の壁まで避難すると、悪かったと懸命に手振り身振りをしてみせる。
「まあ怒るなって。役得や役得。ちいと可愛い猫ちゃんの振りして甘えさせてもろうただけや。わいがこれだけ大変や思いをしてティーナの元へ駆けつけたってのに、愛しいお姫さんは誰かさんの心配ばかりしとるんやからな。うん、だんだん思い出してきよったで。ティーナは無事や。これだけは間違いない」
「……ふん」
 確信を持ってティーナの無事を断言されて安堵するものの、胸の奥がちりちりとするようなこの苛立ちは何だろう?
 アガシが愛らしい猫の姿で何をしてきたのか、今までの彼を見ていれば大よその想像はつく。とは言え所詮は猫の姿だ。せいぜい腕に抱かれて擦り寄ったとか、頬を舐めたとかその程度のことだろう。
 アガシのやることだから仕方がないと自分を納得させようとしたのに、胸のちりちりは余計に増すだけだ。わけのわからない感情を向こうへ押しやると、場所をベッドの上から椅子に戻ると、抱えたひざに顎を乗せる。
「で。お前が彼女とが会ってから……何があったんだ?」
「そうそうそう! わいとティーナがいい感じになっとった時に邪魔が入ったんや。確かそうや。うん、きっとそうや。あああ…もう少しで姫の熱い抱擁と口付けがいただけるところやったのに……」
 アガシは「惜しいことをしたわ」と呟き芝居がかった仕草で額に手を当てる。
「……お前な」
 ラズリは疲れたようにため息をつく。
「なんや、悔しいんかラズリ」
「どうして俺が」
「そんな顔しとるで。わいを見る目が怖いし」
「誤解だ。お前はさっきからどうしてそう言う……」
 人を煽るようなことばかり言うんだ。アガシに問おうとして、ようやくラズリは理解した。
「……いい加減にしろ。誤解があるようだが、俺はティー……彼女をそういう対象として見ているわけじゃない。だからお前が何を言っても俺はどうも思わない」
 ティーナのことが心配なのは別にアガシの思うような理由などではない。他人の心配ばかりしているくせに、自分の危険は省みない向う見ずな行動が心配なだけだ。それに本来はティーナのものである守り石を自分が預かっていることに後ろめたさを感じている。ただそれだけだというのに。
 だがアガシは「はいはい」と聞き流すとこう返してきた。
「で、そういう『対象』ってどんなん?」
「どんなって……」
 ラズリは一瞬返事に詰まる。
「つまりは…あれだ。お前が彼女に対して抱いているような」
「え? わいがティーナに抱いているアレって何や?」
 わざとらしくアガシはニヤニヤしたまま小首を傾げる。からかわれているのは重々承知しているが、ここではっきり言わなければずっとからかいの材料になりそうだ。
「はっきり言おう。おれは彼女に、ティーナに好きだとか嫌いだとか浮ついた感情は抱いていない」
「じゃあ浮ついていない気持ちならあるってことか」
 どうして何でも恋愛感情に結び付けたがるのだろう。呆れるよりも、怒りに近い感情が芽生える。
「だから……! お前はどうしてすぐにそういう方向へ持っていきたがるんだ? 相手が女性だからといって何でも色恋沙汰が絡んでいるというものでもないだろう?」
「まあ、そうなんやけど……」
 アガシは壁にもたれたままずるずると座り込むと、少し怒ったような、拗ねたように唇を引き結んだ。
「今までラズリがこない他人のことを、しかも女の子のことを気に掛けるなんてなかったやないか」
「それは………」
 確かにそうかもしれない。ラズリは再び言葉を詰まらせる。
「状況が、状況だからだ。仕方がない」
「状況、ねえ」
 単なるいい訳としかアガシは受け止めていないようだ。今まで起こった出来事を説明すればアガシも納得してくれるだろう。しかし、それはアガシの身に危険が及ぶ可能性も大きくなる。
「ま、ええわ」
 すると突然、あっけらかんとアガシは言った。
「お前がティーナをどう思おうとわいは構へん」
 アガシは上目遣いにラズリを見上げると、くしゃりと表情を歪める。
「…けど、悔しいねん。わいがいくらティーナを思っていても、ラズリラズリってお前の心配ばかりしとるやろ。おまけにラズリまでティーナティーナって……ああもう、イヤやわあ」
 膝に額をこすりつけると、大きなため息をついた。
「あーやっぱり構わんことないわ。ラズリ。お前さんはひとりの女の子で満足せんで、いつまでも全女生徒たちの王子様でおってや、頼むわ」
 王子、と言われて一瞬どきりとする。だがアガシがそういうつもりで言ったのではないと瞬時に理解し、ひっそりと唾を飲み込む。
 アガシは自分の髪を半ば自棄になって両手でぐしゃぐしゃとかき回した。
「あかん。何言っとるんやろな。すまんラズリ。お前がどう思おうと自由や。わいホンマ女々しいなあ……ホンマ、すまん」
「……アガシ、お前」
 ラズリはそう呟くと、アガシよりもさらに盛大なため息をついた。
「お前って奴は……本当に人の話を聞いていないな」
「なんやねん。その言い草は?」
 頬を上気させて反論するアガシにラズリは冷ややかに言った。
「ひとりで勝手に盛り上がって、勝手に完結するな。さっきからお前の考えているようなものじゃないと言ってるだろう!」
 だがアガシは反抗的な視線を向けると、じいっとラズリを睨みつける。
「そんなこと言うても納得いかんわ。言い訳にしか聞こえへんて。ええ加減白状しいや」
「あのな……」
 どう言ってもアガシは話をそっちの方へ持っていこうとする。まいったな、とラズリは無意識のうちにシャツの下にある守り石を握り締める。
「……取り敢えずその話は置いておこう。話の論点から大きく外れている」
「あー……そうやった、すまん」
 その一言でアガシも冷静になったようだ。これ以上追求されるのを免れて、内心ラズリはほっとする。
「ティーナと会って、それからなあ…やっぱり思いだせんのや」
「憑依の術に問題がないとすれば…お前に覚えられていては不味いことでもあったとしか考えられないな。アガシ、その場にティーナの他に誰かいなかったか?」
 アガシは力なく首を振る。そうか、と呟くとラズリは唇を噛んだ。
 もしかしたらミランダがティーナの後を追ったのではないだろうか。あの女は古代魔法をも使いこなすほどの術者だ。ファルナトゥだろうが地上の果てだろうが関係ないだろう。ロータスを離れ、守り石すら手放したティーナをただ放っておくとは思えない。
 まさかとは思うが、もしやティーナのファルナトゥ行きにミランダが係わってはいないだろうか。ミランダとデヴォンシャー家に係わりがあるとは考えにくいが、ひとつの可能性として考えてもおかしくはない。しかし、可能性だけで繋げていっては何だって関係があるように思えてきてしまう。
 ふと、魔法薬学の教官であるディーン・ジローラモの顔が浮かんだ。
 ティーナが守り石を託したあの男なら何かを知っているかもしれない。ティーナはきっとディーンを信用しているのだろう。突然のファルナトゥ行きに戸惑ったティーナは恐らくディーンになんらかの相談を持ち掛けたはずだ。
---俺が戻ってくるまで、どうして待っていなかったんだ。
 知っていたら絶対ひとりでなど行かせなかったのに。王太子だから遠慮したのか。それとも自分では頼りないと思ったのか。
「……ラズリ。わいが悪かったと思うけど、頼むからそんな怖い顔せんといてや」
 アガシの声で我に返る。
「え? ……ああ、すまない。別にそういうつもりは…」
 指摘されて始めて自分が腹を立てているのだと自覚する。
 何に対して怒りを感じているのだろう。黙ってロータスを去ったティーナに対してか、ティーナをファルナトゥへ行かせてしまったディーンに対してか。それは恐らく無力な自分に対してだ。
 ラズリは自嘲すると唇を噛んだ。
 もしかしたらただの思い過ごしかもしれない。だが思い過ごしで簡単に自分の中で整理するのは不可能だ。せめてひと目だけでいい、ティーナの安否を確かめられればと思う。とはいえ、今度学院を飛び出せば謹慎処分だけでは済まされないだろう。
『無断で学外に出たことが発覚すれば、今度は退学処分を君に下すことを我々職員間で協議せねばなりませんよ』
 ディーンの言葉が脳裏を過ぎる。ティーナの身を案じながらも、この学院を去ることなどできないと思う自分がいる。周囲の猛反対を押し切って入学した学院を退学になど……絶対にできない。ラズリ自身、望んで入学した学院をやめたくなかった。周囲に迷惑を掛けるのは重々承知の上だった。
 模範的でいなければ。優秀な生徒でいなければ。
 それは父が学院行きを許された時から胸に誓っていた。本来なら王宮で後継者としての責任を果たさなければならない身だ。なのに父も母もラズリの我がままを許してくれた。反対する重臣達を説き伏せ、最後の自由を与えてくれた。自分の未来を選択できない世継ぎの息子の、せめてもの願いを叶えてやりたいと思ったのかもしれない。そんな父や母の思いやりを踏みにじる行為などできない。
 この身を残して、心だけティーナの元へ飛んでいければいいのに。
 青い瞳をした飛竜の神々しい姿。まだ目蓋にくっきりと焼き付いている。あの飛竜にはロータスとファルナトゥの距離など無意味だろうに。
「……あ」
 ふと頭にひらめいた。思わず声が漏れた。
 なんだ、そうだ。どうしてこんな単純なことに気づかなかったのだろう。
 悩んでいたのが莫迦みたいだ。ラズリはくっくと肩を震わせて笑い始めた。
「ラズリ?」
 怪訝そうに顔を覗きこむアガシを真っ直ぐに見つめる。
「アガシ、お前に折り入って頼みがある」
 吹っ切れたようにラズリは言った。妙に晴れやかなラズリの様子に戸惑いを隠せないようだ。アガシは訝しげに何度か瞬きをする。
「あー……何や?」
 次に言う言葉にアガシがどんな反応を示すか予想はついていた。それを思うとおかしくて、つい笑ってしまいそうになるのを堪えてラズリは言った。
「憑依の魔法を教えてくれ」
 一瞬の間の後、
「はあっ?!」
 案の定、アガシはすっとんきょうな声を上げる。思った通りだったと笑っているラズリの肩を掴むと、アガシは怒声を上げる。
「何をアホなこと抜かしてるん?! このわいだって会得するのに何年掛かったと思っとるんや…って、そうじゃのうて!! お前、これ以上問題起こして退学にでもなったらどないするつもりや!!」
「だから憑依の魔法を教えて欲しいと言っているんだろう?」
 何を当たり前のことを。と言わんばかりにラズリは呆れ顔になる。絶句しているアガシにラズリは当然のように言った。
「表向きでは俺はどこにも行ったことにならないだろう。この身は学院にあるのだから無断外出にはならない。違うか?」
「……お前っ! さっきは人に散々莫迦莫迦言ったクセに何を言うとるねん! わいがこの術を使うのとお前が使うのとじゃ意味が違うんや!! 死ぬつもりかこのド阿呆が!!!」
 ラズリの襟首を掴むとそのまま壁に押し付けた。体格ではアガシの方が勝る。ラズリは息苦しさを堪えながら訴える。
「覚えるには一晩あれば十分だ」
「ふざけるな!」
 アガシの手に、さらに力がこもった。くぐもったうめき声がラズリの唇から漏れる。
「魔法は覚えりゃいいってもんじゃない。その力を理解した上で自分のものにする。それで初めて『使える』って胸張って言えるんや!!」
 アガシは容赦なかった。当然だ。憑依の術はアガシの一族に古くから受け継がれている魔法なのだから。一晩で覚えるなどと、アガシだけにではない。アガシの一族に対する侮辱と言ってもいいだろう。どうしてアガシと喧嘩をしてまで、こんなことをしようとしているのか、ラズリ自身わからなかった。
 けれどこれしかティーナの安否を知る術がない。
「夜が…明ける前までに、会得できなかったら……あきら、める。だ…から」
 頼むアガシ。最後はほとんど声になっていなかった。
 無理を承知での頼みだった。大丈夫だという自信が半分、無理かもしれないという気持ちも半分。どちらかというと無理かもしれないという気持ちの方が勝っていたが、何もせずああだこうだと考えているよりはずっといい。ただ手をこまねいているだけなんてできなかった。
 互いに至近距離から睨み合う。どちらも譲り合う様子もなかったが、しばらくしてアガシが低く呟いた。
「……上等や。そない言うならやってみい」
「アガシ……」
 アガシは諦めたように苦笑すると、手を振り解き、ふいっとそっぽを向いてしまう。
「簡単に言うとるが、このわいだって覚えるまで苦労したんや。そない簡単だと思ったら大間違いやで」
「ありがとう、アガシ」
 ラズリは破顔する。しかしアガシはそっぽを向いたまま、面白くなさそうに首をすくめるだけだった。
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