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こんばんは。ちょっと予定よりも遅くなりましたが「結の章・3 part 3」をお届けいたします。
(そういえば、part1、part2と名前を入れるのを忘れてました…。)
今回やっと「竜召喚の儀」が決行です!


 用意されたものは黒の長衣とローブという、他の魔法使いと変わらないものだった。ただ長衣の襟元には守護の意味合いを持つ古代魔法文字が模様のように金糸で縫い取られていた。

「さあ、こちらを」

 アニスは手にした黒いローブをうやうやしくラズリの肩に掛ける。このローブは本来なら学院を卒業し、一人前の魔法使いと認められなければ身に纏うことを赦されない。まだ就学中の自分がこのようなものを纏っていいのか躊躇したが、ラズリは余計なことを考えるまいと思考を断ち切った。

 一見重たそうに見えるローブは羽根のように軽やかだった。ふわりと焚き染められた香が鼻をくすぐる。

「このローブには魔力と集中力を高めるとされる香が焚き染められています」

「そうか」

 アニスの解説に相槌を打った。最後に手渡された絹の手袋を両手にはめると、きりりとした緊張感が走る。

 唇を引き結ぶラズリの様子を静かに見守っていたアニスだったが、ふと口元を綻ばせているのをラズリは見逃さなかった。

「何か愉快なことでもあるのか?」

「いいえ」

 首を振ったアニスだったが、何か思い直したように「はい」と答えて目を細めた。ふわりと笑うとやはりティーナに似ている。

「私の従妹がよく手紙で学院のことを書いていたものですから」

「ティーナが?」

「はい。殿下だと思われる少年のことも。『ラズリ・マーヴィ』という少年は、殿下の仮のお姿なのでしょう?」

「……ああ、そうだ」

 自分の知らないところでそんなやり取りがされているとは夢にも思わなかった。

 それにしてもティーナの奴……。

 一体手紙に何と書いていたのだろう。アニスが妙ににこにこと嬉しそうにしているのが気になって仕方がない。

「何と書いてあったか気になりますか?」

 人の心を見透かしたかのようにアニスは微笑んだ。だが素直に認めるのも面白くないフードを無造作に被るとラズリは「別に。気になりなどしない」と突っぱねてしまう。

 本来女というものはおしゃべりなものだ。いくら自分が「聞きたくない」と言ったとしても、本当は話がしたくてたまらないのだ。だからアニスの方から勝手に話し出すだろう、とラズリは内心思っていた。それは三人の姉の姿を見て学習したことだった。しかし。

「わかりました。それではやめておきます」

「え……」

「大切な儀式の前に無駄話など始めてしまい申し訳ございませんでした」

 アニスは頭を下げると、ラズリのローブの紐を守りの印の形に結び始めた。拍子抜けしたラズリは、自分の身なりを整えるアニスの顔をまじまじと見てしまう。

「どうかなさいましたか殿下?」

「……別に」

 まあいい。ティーナがどう手紙に書いたなど関係ない。

「いや……」

 何を手紙に書いたのか。後できっちり聞き出してやる。ティーナの真っ赤になった顔が容易に思い浮かぶ。

 いつも一人で勝手に動きやがって。こっちの気も少しは考えろってんだ。

「本人に会って直接聞いてやるさ」

 少し意地悪な気持ちが沸き上がり、ラズリは口の端を微かに上げる。

 覚悟しておけ。俺に黙ってファルナトゥに行った罰だ。

「殿下。お支度が終わりました」

 年相応な表情を覗かせたのは一瞬。すぐさま皇太子の顔となる。

「ご苦労だった」

 額づくアニスを見下ろし、静かに微笑んだ。


     *     *     *     *

 
 竜召喚の儀は予定通り学院の校庭で行うこととなった。普段見慣れたはずの光景は、夜のせいかまるで知らない場所のようだ。灯りのない校舎は要塞にも思えるし、巨大な生物がうずくまっている姿のようにも見えなくない。

 無意識にラズリはごくりと唾を飲み込んだ。柄にもなく緊張しているらしいと自覚する。

 ―――始まる。

 ラズリを中心にレドナ、ケイン、クリフ、アニス、ギルフォードが円を描くように等間隔の位置で待機している。ラズリは東に面して立つと、その場で片膝を折って右の手のひらを大地に降ろした。すうっと息を吸い込むと、低い声で呪文の詠唱を始める。



 我が声を聞け、そして全ての精霊よ我に従え。



 ふわりと下から風が起こる。地面に置いた指の隙間から冷たくも温かくもない風が、ラズリのフードを背中へ跳ね除ける。あらわになった金茶の髪が次第に激しくなる風になぶられる。

 ぼうっと青白い光が地面から浮かび上がり、光の筋は校庭に大きな五芒星を描き始める。五芒星の鋭角はラズリを取り巻く五人の足元へ伸び、星の形が完成したのを確認するとそれぞれ胸元で印を切る。



 全ての蒼穹の精霊、地の上の精霊、地の下の精霊、


 陸の精霊、海の精霊、渦巻く風の精霊、逆巻く炎の精霊、



 五人の詠唱が鈴を打つように凛と響き、星形の中にある五角形が青い光に輝いた。

 光に包まれたラズリは、自分の四肢に力がみなぎるのを感じた。五人の魔法使い達の力と、この地表を取り巻く精霊たちの力。かつて自分ひとりの魔力のみで竜を召喚した時のことを思い出す。

 自分の力がどれほどのものか試してみたかった。周囲の反対を押し切ってまで学院に入ったのだから。他の生徒達も使えるような並の力ではいけないのだと、いつも自分に言い聞かせてきた。そうやって自らに高い課題を与え続けてきたのだから。

 そうしているうちに、どうしてこの学院に入ったのか忘れてしまっていた。ただ……空が飛びたい。たったそれだけの、ささやかな願いのためだったというのに。ファルナトゥの離宮で出会った少女のように、自由に空を翔けてみたかったから。

 ……ティーナ。

 お前に出会ったから、俺はここにいるんだ。お前が俺に見せてくれたあの光景を、もう一度見てみたかったんだ。

 ラズリは立ち上がると、十字の印を結び高らかに叫んだ。



 我はセレスト・セレスティアン王国第三十八代目王位継承者ラズウェルト・セイルファーディム。


 我が名において、囚われし全ての精霊を解放せん。



 途端、大地から突き抜けるような「力」の流れがラズリを貫いた。まるで濁流に飲み込まれたかのような奔流にラズリは意識を手放しそうになるが、辛うじて掴んだ正気の切れ端を己の元へ引き戻した。

 無意識のうちに胸元の守り石をまさぐっていた。だが石はミランダによって奪われていたのだと思い出し、小さく舌打ちをした。

 ぎりりと歯を食いしばり顔を上げると、五芒星の鋭角に立つケインと視線がぶつかった。「しっかりしろ」とでも言うように、不敵ににやりと口の端を上げる。余計な心配は無用だと睨みつけると、ケインは軽く首をすくめる。

 力の濁流に巻き込まれているのはラズリだけではなかった。けれど彼らはラズリを守るため、まるで謳うように呪文を唱え続けていた。足元が浮き上がりそうな強風に煽られながらも、しっかりと大地に立っている。女性であるレドナやアニスも同様だ。まるで地に根が生えたかのように微動だにしない。彼らはラズリに力を送るために、ラズリを守護するためにここにいる。

 この国を、世界を守るため。七色宝球と呼ばれる竜たちを召喚するために。

 ……そうだ。

 もう守り石はない。けれど、ここにいるのは自分ひとりではない。

 大きく息を吸い込むと、腹の底で刻むように言葉を紡ぎ始めた。



 汝、自然の造らざる者よ、


 汝、広大にして強大なる者よ、


 汝、地と天を造りし者よ、


 汝、昼と夜を造りし者よ、


 汝、闇と光を造りし者よ、


 我の声を聞け、我に応えよ。



 今思えば、よくあのような稚拙な魔法で竜を召喚できたものだとラズリは思った。

 始めての召喚魔法は無駄に力ある呪文を塗り固め、ほころびがあればまた上塗りをしてくような感覚だったが、昨夜ケインに叩き込まれた召喚魔法は、煉瓦を積み上げて塔を建てるような……そんな感覚に近い気がした。

 五人の魔法使いという強固な基礎に、ラズリがひとつひとつ正確に呪文で呼び起こした魔力という煉瓦を積み上げていく。ひとつでも間違えたり、手を抜いたりしてはあっという間に崩れ去ってしまう。脆くも強い、天空を目指す塔を作り上げていくようだ。



 我らは汝の元に行かず、汝が我らの元に来たれり。


 星と、夜と、稲妻の彩る空間に、


 汝がいずこを彷徨うとも、我らの元に帰り来たり。



 五人の言葉は時を刻む時計の針よりも正確で、一語一句も乱れはしない。重ねられてゆく呪文によって巨大な五芒星はさらに輝きを増し、満天の星の瞬きすらかき消してしまう。

 月も星も姿を消した夜空の果てに、かすかな煌めきの気配がする。もう少しだとラズリは歯を食いしばり、己の身体に鞭打つと最後の呪文を唱え始めた。

 


 汝は万象の宝物、


 全霊の長により捧げられし秘密の王冠なり、


 完全なる闇の中でなお輝きを保ちたり、


 輝く蒼穹の中で七色の衣を纏いたり、


 凱旋する太陽の如く世界を満たせり、


 無垢なる蒼穹の宝珠たちよ、



 六人の声が寸部の狂いもなく、美しい和音のよう響き渡る。

 そして、ラズリは両の腕を天に向かって差し伸べると、声高らかに叫んだ。




「ここに汝らを召喚せん」



 嵐をも切り裂くような声で最後の言葉を言い放つや否や、五芒星の青白い光が中心に集まり、どうっという音と共に天に向かって光の矢を放つ。

 ラズリは光の中心にいた。しかし先ほどのような「力」の流れに翻弄されることはなかった。まるで凪のように穏やかな流れの中で、ラズリは天上を見上げた。

 天空を貫いた光を起点に暗闇よりも暗い虚空が広がっていた。見る間に穴は大きくなっていく。

 ………来た!

 虚空の中に星の瞬きに似た煌めくものを見つけた。七色宝珠とは上手いことを言うものだ。

 真珠の輝きに似た白銀の竜、鋼の鱗を持つ黒竜、鈍い黄金色の光を放つ黄竜、柘榴の実の如く深い紅の竜、翡翠の像のような緑竜、紫水晶の鱗を纏った紫竜。そして、セレスト・セレスティアンを象徴する蒼色の竜。

 誰もが我を忘れてその美しい宝珠の如き姿に見惚れそうになる。七頭の竜は大きな円を描きながら徐々に地表へと近付いて来る。ラズリはその姿を目に焼き付けるように見つめていた。
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ぐ…ぐれいと~!
 いさなさん「最初からクライマックスだぜぇぇ!」な(笑)大迫力満点のシーンの執筆オツカレさまでした!
 ラズリにローブを着せるアニスの意味深な微笑みとか(じゃ、やめますvv な辺りに大人の女性の余裕を見た!)、ラズリがティーナに会ったら聞き出してやる!と思った時の嬉々とした様子が手に取れるほどで「か、かわいいなあ。ふふふふっ」と一人でにたついてたり、なんつーかこう、癒し!をいただいた気分ですvv
 魔法の詠唱の文字色が異なるのもブログならではの効用ですね!
 七色竜の描写がとっても絢爛豪華で、きらびやかでとっても洋物!って感じがしましたvv
 がんばりましたね!!
 ラズリがセレスト・セレスティアン王国三十八代目とはvv となると国は大体300年ぐらい続いているのかなーと推察してみたり(王の寿命が平均70代くらいと計算してみたのですが、高齢かしらね;)歴史的にはそんなに古い国でもないのかしらと思ったりもね。(ここいら辺りは設定話になっちゃうかしら;)

 次回は竜との対話編となるのでしょうかvv
 例のラズリと面識あるしろがね・くろがねの二頭もおりますので、久しぶりだな小僧、みたいな感じになるのかなあとかなんとか、また楽しみにしていますvv

 うう、オリジナルはやっぱりいいなあ~♪
 楽しませていただきましたぜいいっ
やまの@当事者片割れ URL 2007/10/15(Mon)22:28:31 編集
お次でラストぉ!
さっそくご感想ありがとうございます。
次回でわたしのパートも終わりです。やまのさんにクライマックスへのバトンを渡せるよう頑張ります!

次回は…いよいよ竜との対話編となる予定です。
お久しぶりの白竜、黒竜とのご対面に、新たに出現した竜たちとのご対面。
打ち上げまでもうひと踏ん張りです!(オイ)
いさな 2007/10/16(Tue)00:06:56 編集
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