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約1週間ぶりとなりました。
やっと「結の章・1」がこれにて完結です。
次回はやまのさんが執筆の「結の章・2」がスタートとなります。
……とまあ、その前にこちらをご覧いただけると幸いです。
やっと「結の章・1」がこれにて完結です。
次回はやまのさんが執筆の「結の章・2」がスタートとなります。
……とまあ、その前にこちらをご覧いただけると幸いです。
ティーナは歩き続けた。白いワンピースは草の汁や土で汚れ、せっかく編み上げた髪も乱れてしまった。しかし、がここで気にしてもどうにもならない。髪を結んでいたリボンが片方なくなっていることに気づき、諦めてもう片方のリボンも外して三つ編みを解いた。
「こっちで合っているのかな…」
不安げに後ろを振り返ると視界に映るのは、緑の木々の壁と絨毯のようにきれいに刈られた芝生だけ。もしかしたら道を間違っているのかもしれないと幾度か引き返してみたりもしたが、同じところをぐるぐる回っているような気さえする。そのうち、自分が前に進んでいるのか、後へ引き返しているのかすらわからなくなっていた。
頼りとなる薔薇の甘い匂いは、すっかり鼻が慣れてしまったせいか、よくわからなくなっていた。もしかしたらもう匂いなどしていないのかもしれない。
すっかり疲れ切って何度も足がもつれそうになるが、ティーナは歩くことをやめなかった。もう、何もできない、非力だと泣いたり嘆いたりするのは嫌だった。非力なら非力なりにできることはある。今、ティーナにできること。ミランダの手が及ぶ前にディルナスを見つけ出すこと。
もしも、すでにディルナスの身に危険が及んでいたら……!
次々と嫌な考えばかりが頭に浮かぶ。ティーナは必死に次々と過ぎるものを振り払いながら歩き続けるが、とうとう膝から崩れ落ちるように芝生の上にへたり込んでしまった。
疲れのせいか、空腹のせいか。じょじょに身体の力が抜け落ちていくような感覚を覚えながら、ティーナは小刻みに震える自分の手を見つめた。ティーナはぎゅっと手を握り締め、もう一度立ち上がろうとしたが、数歩歩くのがやっとだった。再びその場にしゃがみ込むと、救いを求めるように空を仰いだ。
庭園に入ってからどれくらいの時間が経ったのだろう。空を見上げても太陽は見えない。けれども空は明るい青が広がっていて、今が一体何時なのか見当もつかなかった。
---もしかしたら、ずっとここから出られないんじゃ……。
ミランダの魔法だったら、庭園を迷宮に帰ることなど造作もないだろう。いや、庭園だけではなく、このファルナトゥの離宮ごと魔法が掛けられていたとしたら? この迷宮がディルナスを閉じ込めるためのものだとしたら?
ディルナスはラズリの従兄だが、本当の兄弟のように親しかったと聞いている。万が一、ディルナスの身に何かがあったと知ったら、きっとラズリは飛んでくるだろう。ミランダの狙いがラズリだったら、この迷宮はラズリをおびき寄せる罠なのかもしれない。
でも……。
自分が立てた考えに、ティーナはふと首を傾げる。
あのミランダがそんなまどろっこしい手を使うだろうか? 今までの手段から考えると、彼女ならもっと攻撃的な方法を取りそうなものだ。とはいえ、ミランダのすべてを知っているわけではない。
もしかして、ミランダ先生じゃなかったら?
どうしてそんなことを思ったのだろう。ティーナ自身、よくわからなかった。理由などない、ただの勘に過ぎない。しかし、その根拠のない考えが浮かんでしまった途端、ティーナは頭の中で可能性がある人間をはじき出し始めていた。
魔法を使える人間は、ティーナの周囲にいくらでもいる。可能性がない人間を選び出す方が難しいと言えよう。だったら、ロータスと係わりのない人間だとしたら?
「でも……ミランダ先生じゃなかったら、一体誰が……」
頭を振った時、目の前の風景が一瞬ぼやけた。
「え?」
思わず瞬きをした途端、目の前にあるものすべてが飴のようにぐにゃりと歪んだ。
「あ、あ………」
歪んだ風景が今度は渦を巻くように動き始める。ティーナは呆然と辺りを見回していたが、だんだん乗り物酔いになったような気分になってくる。
気持ちが悪い……。
口元を両手で押さえると、ティーナはうずくまったまま目を堅く閉じた。眩暈に似た感覚が収まるのを待っていたが、一向に収まる気配はない。
苦しい、誰か……助けて。
声にならない悲鳴を上げた時、微かな甘い匂いが鼻をかすめた。
薔薇の匂い? まさか……。
顔を上げようとするが、一瞬視界が真っ白になって再び地面に倒れ込んでしまう。
「ティーナ、大丈夫?」
長い時間が経ったような気もするし、ほんのわずかな時間だったような気もする。
---誰だろう?
ティーナは考えようとするが、まだ頭がぼんやりとしていて思考回路が回らない。
「ティーナ……」
穏やかな声と共に、大きな手が降りてきた。いたわるようにティーナの髪を撫でる。
---気持ち、いいなあ……。
まるで魔法に掛かったようだ。不思議なことに少しずつだが気分が楽になってきた。
---誰?
ティーナはゆっくりと瞼を開く。柔らかい土の匂いと、甘く芳しい薔薇の匂いがティーナの鼻腔に流れてきた。力強い手で抱き起こされるのはわかるが、今は瞼を上げるのもだるくて相手に身をゆだねるしかなかった。
「もう大丈夫だよ」
この声は誰だろう。確かに聞き覚えのある声だ。冷たい指がティーナの頬についた土を払ってくれる。
ティーナはまだ重たい瞼をやっとのことで押し上げると、まだぼやける視界に映る人物に目を凝らす。陽に透けてきらきらと光るのは金色の髪だろう。ふっと、相手が安心したようにはにかんだのがわかった。
「よかった、ティーナ」
そう言うや否や、相手にティーナは抱きすくめられてしまう。こんなに細い身体のどこにこんな力があるのだろう。力いっぱい抱き締められながら、ティーナはようやくこの人が誰なのかようやく気がついた。
「…ディルナス、さま?」
「あ、の……本当に……? どうして、えと…ここは……」
自分でも何を言いたいのかわからない。ただこうしてディルナスの金色の髪に顔を埋めながら、じょじょに今の状況を自覚していくにつれて、ティーナの顔はみるみる真っ赤に染まっていった。
「ディ、ディルナスさま…」
シャツ越しに感じる引き締まった体躯から、ほんのりと汗の匂いがする。だがけして不快ではない。まるでおとぎ話の登場人物のようなディルナスが、確かに血の通った人間なのだと感じて、ティーナの動悸は高まるばかりだった。
「あの、えと、申し訳ありません。もう大丈夫ですから、あの、すみません、少し苦しいのですが……」
蚊の鳴くような声で懇願すると、ようやくディルナスの腕から力が抜けた。
「ごめん、つい……」
腕を解かれて、ほっと息をつくのもつかの間、今度は息が届くほどの近距離でディルナスと向かい合うこととなってしまう。こうも近いと今更視線を逸らすわけにもいかず、ディルナスと互いに見つめ合う。
空よりも深い青の瞳。ラズリの瞳もきれいな青だと思ったが、ディルナスの瞳はたとえようのない青だった。思わず恥ずかしさを忘れてまるで宝玉のような瞳に見惚れてしまう。
「ここまで来るのに大変だったろう。でも、きっと君なら辿り着けると信じていたよ」
ディルナスはふわりと微笑むと、ティーナの頬にそっと口づけた。
わ、わわわわ……!
ディルナスの柔らかい唇の感触と、頬に掛かるあたたかな息。心臓がものすごい勢いで打ち続けている。今、自分の顔はきっと赤くなったり青ざめたりとまるで信号機のようになっているだろう。
……もう無理、勘弁して下さいっ! …ディーン先生っ、助けて!!
心の中で助けを求めずにはいられなかった。こうして意識を保っていられるのが奇跡だと言えよう。
「ディ…ルナス、さま。本当に、本当にもう大丈夫ですので……離しては、いただけないでしょうか」
息も絶え絶えにティーナは訴える。
「ああ……ごめんよ」
ディルナスは悲しげに目を細めると、やっとティーナを解放してくれた。ティーナの手を取ると、立ち上がるのを手伝ってくれる。
「ありがとうございます…」
紳士的なディルナスの態度に、急に申し訳ない気持ちになってしまう。だが、ようやく見渡した辺りの光景にティーナは息を飲んだ。
さっきの緑に囲まれた迷宮から一変して、そこは広大な薔薇の庭園だった。なだらかな丘になっているようで、この場所から庭園を一望できる。だが丘の下の方へ行くにつれて、薔薇の色がくすんでいっているように見えた。そして。
「ディルナスさま……あれは」
丘の下の方から黒い霧のようなものがじょじょに浸食されていた。その黒い霧は闇よりも暗く、その先に何があるのかもわからないほどだ。
「霧が……」
少しずつではあるが、黒い霧は確実に浸食を進めていた。庭園を黒い舌で舐め溶かしていくような錯覚を覚えて、ティーナは身震いする。
「すごいだろう」
背後からティーナの肩を抱くと、ディルナスは耳元で囁いた。
「あれはね、僕が育てているんだよ。あれはいずれこの庭園を……いや、この世界のすべてを飲み込んでくれる」
「え……」
ディルナスは何を言っているのだろう。心臓の鼓動は相変わらず続いていたが、緊張と恥ずかしさのあまり胸が高鳴るようなものではなかった。
---怖い。
何か恐ろしいことが起こる前触れのようだ。まるでディルナスが一瞬のうちに、まるで知らない人のように思えて怖かった。
「ねえ、ティーナ。ここで君と出会ったのはラズウェルトだけじゃないんだよ」
「ディルナスさま……?」
相変わらず穏やかな口調は変わらない。何がどう変わったというわけではないが、振り返ってディルナスが今どんな顔をして語り掛けているのか確かめるのが怖かった。
「君がこの離宮にやってくるのをどれほど心待ちにしていたことか……。息の詰まりそうなこの離宮で、君の存在にどんなに救われたことか」
「そ、そんな……あたし、いえ、私は何もしていません。それにディルナスさまとお話するのだって……」
ディルナスを庭師だと勘違いして、薔薇を貰った時くらいしかない。
「ああ、庭園で会ったあの時、一度きりだよ。だけど……」
ディルナスは突然言葉を切る。どうしたのだろうとティーナは肩越しにディルナスを振り返った。変わらない穏やかな表情を浮かべていたが、ティーナの目には今にも泣き出しそうに見えた。
「ティーナ、君にお願いがあるんだ。それを伝えたくて、君を呼んだ……この離宮に」
「…………そうだったんですか?」
(もしかしたらディルナスさまがティーナさまにお会いしたかったんじゃないかなって、私は思うんです)
ふと、ルシアが言っていた言葉が甦る。
---嘘、本当に……?
ティーナが驚いている顔を覗き込んで、ディルナスはくすりと笑った。
「そうだよ。ごめんね、君を呼ぶ理由を母上のせいにしたりして」
「いっいえ……」
そんなことはありません、とティーナは頭を振った。
「ねえ、僕のお願いを聞いて貰える?」
「お願い……?」
こんな顔をされたら、どんな無理な頼みでも断れなくなってしまいそうで怖くなる。ティーナは目を逸らそうとしたが、ディルナスがそれを許してはくれなかった。ディルナスはティーナの顎を指先で捉えると、真っ直ぐに青い瞳で見つめた。
「僕のそばにいて欲しい……この世界があれに飲み込まれるその時まで、ずっと……」
ディルナスさまは……何をおっしゃっているのだろう。
聞きたいことはたくさんあった。しかし、それを問う間も置かず、ディルナスの唇によって言葉をふさがれてしまい、ただ目の前にあるディルナスの顔を見つめることしかできなかった。
「こっちで合っているのかな…」
不安げに後ろを振り返ると視界に映るのは、緑の木々の壁と絨毯のようにきれいに刈られた芝生だけ。もしかしたら道を間違っているのかもしれないと幾度か引き返してみたりもしたが、同じところをぐるぐる回っているような気さえする。そのうち、自分が前に進んでいるのか、後へ引き返しているのかすらわからなくなっていた。
頼りとなる薔薇の甘い匂いは、すっかり鼻が慣れてしまったせいか、よくわからなくなっていた。もしかしたらもう匂いなどしていないのかもしれない。
すっかり疲れ切って何度も足がもつれそうになるが、ティーナは歩くことをやめなかった。もう、何もできない、非力だと泣いたり嘆いたりするのは嫌だった。非力なら非力なりにできることはある。今、ティーナにできること。ミランダの手が及ぶ前にディルナスを見つけ出すこと。
もしも、すでにディルナスの身に危険が及んでいたら……!
次々と嫌な考えばかりが頭に浮かぶ。ティーナは必死に次々と過ぎるものを振り払いながら歩き続けるが、とうとう膝から崩れ落ちるように芝生の上にへたり込んでしまった。
疲れのせいか、空腹のせいか。じょじょに身体の力が抜け落ちていくような感覚を覚えながら、ティーナは小刻みに震える自分の手を見つめた。ティーナはぎゅっと手を握り締め、もう一度立ち上がろうとしたが、数歩歩くのがやっとだった。再びその場にしゃがみ込むと、救いを求めるように空を仰いだ。
庭園に入ってからどれくらいの時間が経ったのだろう。空を見上げても太陽は見えない。けれども空は明るい青が広がっていて、今が一体何時なのか見当もつかなかった。
---もしかしたら、ずっとここから出られないんじゃ……。
ミランダの魔法だったら、庭園を迷宮に帰ることなど造作もないだろう。いや、庭園だけではなく、このファルナトゥの離宮ごと魔法が掛けられていたとしたら? この迷宮がディルナスを閉じ込めるためのものだとしたら?
ディルナスはラズリの従兄だが、本当の兄弟のように親しかったと聞いている。万が一、ディルナスの身に何かがあったと知ったら、きっとラズリは飛んでくるだろう。ミランダの狙いがラズリだったら、この迷宮はラズリをおびき寄せる罠なのかもしれない。
でも……。
自分が立てた考えに、ティーナはふと首を傾げる。
あのミランダがそんなまどろっこしい手を使うだろうか? 今までの手段から考えると、彼女ならもっと攻撃的な方法を取りそうなものだ。とはいえ、ミランダのすべてを知っているわけではない。
もしかして、ミランダ先生じゃなかったら?
どうしてそんなことを思ったのだろう。ティーナ自身、よくわからなかった。理由などない、ただの勘に過ぎない。しかし、その根拠のない考えが浮かんでしまった途端、ティーナは頭の中で可能性がある人間をはじき出し始めていた。
魔法を使える人間は、ティーナの周囲にいくらでもいる。可能性がない人間を選び出す方が難しいと言えよう。だったら、ロータスと係わりのない人間だとしたら?
「でも……ミランダ先生じゃなかったら、一体誰が……」
頭を振った時、目の前の風景が一瞬ぼやけた。
「え?」
思わず瞬きをした途端、目の前にあるものすべてが飴のようにぐにゃりと歪んだ。
「あ、あ………」
歪んだ風景が今度は渦を巻くように動き始める。ティーナは呆然と辺りを見回していたが、だんだん乗り物酔いになったような気分になってくる。
気持ちが悪い……。
口元を両手で押さえると、ティーナはうずくまったまま目を堅く閉じた。眩暈に似た感覚が収まるのを待っていたが、一向に収まる気配はない。
苦しい、誰か……助けて。
声にならない悲鳴を上げた時、微かな甘い匂いが鼻をかすめた。
薔薇の匂い? まさか……。
顔を上げようとするが、一瞬視界が真っ白になって再び地面に倒れ込んでしまう。
「ティーナ、大丈夫?」
長い時間が経ったような気もするし、ほんのわずかな時間だったような気もする。
---誰だろう?
ティーナは考えようとするが、まだ頭がぼんやりとしていて思考回路が回らない。
「ティーナ……」
穏やかな声と共に、大きな手が降りてきた。いたわるようにティーナの髪を撫でる。
---気持ち、いいなあ……。
まるで魔法に掛かったようだ。不思議なことに少しずつだが気分が楽になってきた。
---誰?
ティーナはゆっくりと瞼を開く。柔らかい土の匂いと、甘く芳しい薔薇の匂いがティーナの鼻腔に流れてきた。力強い手で抱き起こされるのはわかるが、今は瞼を上げるのもだるくて相手に身をゆだねるしかなかった。
「もう大丈夫だよ」
この声は誰だろう。確かに聞き覚えのある声だ。冷たい指がティーナの頬についた土を払ってくれる。
ティーナはまだ重たい瞼をやっとのことで押し上げると、まだぼやける視界に映る人物に目を凝らす。陽に透けてきらきらと光るのは金色の髪だろう。ふっと、相手が安心したようにはにかんだのがわかった。
「よかった、ティーナ」
そう言うや否や、相手にティーナは抱きすくめられてしまう。こんなに細い身体のどこにこんな力があるのだろう。力いっぱい抱き締められながら、ティーナはようやくこの人が誰なのかようやく気がついた。
「…ディルナス、さま?」
「あ、の……本当に……? どうして、えと…ここは……」
自分でも何を言いたいのかわからない。ただこうしてディルナスの金色の髪に顔を埋めながら、じょじょに今の状況を自覚していくにつれて、ティーナの顔はみるみる真っ赤に染まっていった。
「ディ、ディルナスさま…」
シャツ越しに感じる引き締まった体躯から、ほんのりと汗の匂いがする。だがけして不快ではない。まるでおとぎ話の登場人物のようなディルナスが、確かに血の通った人間なのだと感じて、ティーナの動悸は高まるばかりだった。
「あの、えと、申し訳ありません。もう大丈夫ですから、あの、すみません、少し苦しいのですが……」
蚊の鳴くような声で懇願すると、ようやくディルナスの腕から力が抜けた。
「ごめん、つい……」
腕を解かれて、ほっと息をつくのもつかの間、今度は息が届くほどの近距離でディルナスと向かい合うこととなってしまう。こうも近いと今更視線を逸らすわけにもいかず、ディルナスと互いに見つめ合う。
空よりも深い青の瞳。ラズリの瞳もきれいな青だと思ったが、ディルナスの瞳はたとえようのない青だった。思わず恥ずかしさを忘れてまるで宝玉のような瞳に見惚れてしまう。
「ここまで来るのに大変だったろう。でも、きっと君なら辿り着けると信じていたよ」
ディルナスはふわりと微笑むと、ティーナの頬にそっと口づけた。
わ、わわわわ……!
ディルナスの柔らかい唇の感触と、頬に掛かるあたたかな息。心臓がものすごい勢いで打ち続けている。今、自分の顔はきっと赤くなったり青ざめたりとまるで信号機のようになっているだろう。
……もう無理、勘弁して下さいっ! …ディーン先生っ、助けて!!
心の中で助けを求めずにはいられなかった。こうして意識を保っていられるのが奇跡だと言えよう。
「ディ…ルナス、さま。本当に、本当にもう大丈夫ですので……離しては、いただけないでしょうか」
息も絶え絶えにティーナは訴える。
「ああ……ごめんよ」
ディルナスは悲しげに目を細めると、やっとティーナを解放してくれた。ティーナの手を取ると、立ち上がるのを手伝ってくれる。
「ありがとうございます…」
紳士的なディルナスの態度に、急に申し訳ない気持ちになってしまう。だが、ようやく見渡した辺りの光景にティーナは息を飲んだ。
さっきの緑に囲まれた迷宮から一変して、そこは広大な薔薇の庭園だった。なだらかな丘になっているようで、この場所から庭園を一望できる。だが丘の下の方へ行くにつれて、薔薇の色がくすんでいっているように見えた。そして。
「ディルナスさま……あれは」
丘の下の方から黒い霧のようなものがじょじょに浸食されていた。その黒い霧は闇よりも暗く、その先に何があるのかもわからないほどだ。
「霧が……」
少しずつではあるが、黒い霧は確実に浸食を進めていた。庭園を黒い舌で舐め溶かしていくような錯覚を覚えて、ティーナは身震いする。
「すごいだろう」
背後からティーナの肩を抱くと、ディルナスは耳元で囁いた。
「あれはね、僕が育てているんだよ。あれはいずれこの庭園を……いや、この世界のすべてを飲み込んでくれる」
「え……」
ディルナスは何を言っているのだろう。心臓の鼓動は相変わらず続いていたが、緊張と恥ずかしさのあまり胸が高鳴るようなものではなかった。
---怖い。
何か恐ろしいことが起こる前触れのようだ。まるでディルナスが一瞬のうちに、まるで知らない人のように思えて怖かった。
「ねえ、ティーナ。ここで君と出会ったのはラズウェルトだけじゃないんだよ」
「ディルナスさま……?」
相変わらず穏やかな口調は変わらない。何がどう変わったというわけではないが、振り返ってディルナスが今どんな顔をして語り掛けているのか確かめるのが怖かった。
「君がこの離宮にやってくるのをどれほど心待ちにしていたことか……。息の詰まりそうなこの離宮で、君の存在にどんなに救われたことか」
「そ、そんな……あたし、いえ、私は何もしていません。それにディルナスさまとお話するのだって……」
ディルナスを庭師だと勘違いして、薔薇を貰った時くらいしかない。
「ああ、庭園で会ったあの時、一度きりだよ。だけど……」
ディルナスは突然言葉を切る。どうしたのだろうとティーナは肩越しにディルナスを振り返った。変わらない穏やかな表情を浮かべていたが、ティーナの目には今にも泣き出しそうに見えた。
「ティーナ、君にお願いがあるんだ。それを伝えたくて、君を呼んだ……この離宮に」
「…………そうだったんですか?」
(もしかしたらディルナスさまがティーナさまにお会いしたかったんじゃないかなって、私は思うんです)
ふと、ルシアが言っていた言葉が甦る。
---嘘、本当に……?
ティーナが驚いている顔を覗き込んで、ディルナスはくすりと笑った。
「そうだよ。ごめんね、君を呼ぶ理由を母上のせいにしたりして」
「いっいえ……」
そんなことはありません、とティーナは頭を振った。
「ねえ、僕のお願いを聞いて貰える?」
「お願い……?」
こんな顔をされたら、どんな無理な頼みでも断れなくなってしまいそうで怖くなる。ティーナは目を逸らそうとしたが、ディルナスがそれを許してはくれなかった。ディルナスはティーナの顎を指先で捉えると、真っ直ぐに青い瞳で見つめた。
「僕のそばにいて欲しい……この世界があれに飲み込まれるその時まで、ずっと……」
ディルナスさまは……何をおっしゃっているのだろう。
聞きたいことはたくさんあった。しかし、それを問う間も置かず、ディルナスの唇によって言葉をふさがれてしまい、ただ目の前にあるディルナスの顔を見つめることしかできなかった。
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教えて海渡る風 祈りは時を超える♪
いいいいいい、いさなさーーーーーーん!
ぼたぼたぼたぼたぼたっ
ついさっきまでロミジュリ見ていた(笑・ええ;8話ですが;)私にはなんつーかこう、絵柄が重なってすさまじいことになっていますよ…!
(脳内妄想ではジュリエットとフランシスコな感じで;)
うわああああん、そうきたか、そうくるかディルナス様ーーーーっ!って感じです。
(*´д`)ハァハァ(萌ユス!)
うわあ、すっごいドキドキしてきちゃったなあ。これから眠れるかなあ(爆)
ディルナスさまの魔法にかかりましたよ!(笑)
て、ゆーか
こっから私が話を転がす番なんですよね!
うわ、どどど、どうやって!(をいコラ待てテメェ;)
とりあえず乙女萌え基本はちゅーですよね、うんvv
などとわけわかめなことを吠えながら退場したいと思います~。
ああ~;
教えて海渡る風♪ 祈りは時を超える~♪
ロミジュリ主題歌「祈り You raise me up」が頭の中流れてるなあ
ぼたぼたぼたぼたぼたっ
ついさっきまでロミジュリ見ていた(笑・ええ;8話ですが;)私にはなんつーかこう、絵柄が重なってすさまじいことになっていますよ…!
(脳内妄想ではジュリエットとフランシスコな感じで;)
うわああああん、そうきたか、そうくるかディルナス様ーーーーっ!って感じです。
(*´д`)ハァハァ(萌ユス!)
うわあ、すっごいドキドキしてきちゃったなあ。これから眠れるかなあ(爆)
ディルナスさまの魔法にかかりましたよ!(笑)
て、ゆーか
こっから私が話を転がす番なんですよね!
うわ、どどど、どうやって!(をいコラ待てテメェ;)
とりあえず乙女萌え基本はちゅーですよね、うんvv
などとわけわかめなことを吠えながら退場したいと思います~。
ああ~;
教えて海渡る風♪ 祈りは時を超える~♪
ロミジュリ主題歌「祈り You raise me up」が頭の中流れてるなあ