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「書いていいのは、けなされる覚悟のある奴だけだ…!」

 …はいはい。
 もーいーです。
 おわおわ、終わりましたから…。
 
 ぱたりorz


 お待たせ! いさなさん!
(にっこり。バトン渡し~)

 
 崩れている…? まさか。

 廊下の隅に点在して置かれた盛り塩の山。それのひとつが無残にも崩壊している様に気づいたクリフ・アーヴェレは、いそいそとそちらに歩先を変えて寄っていった。

 セレスト・セレスティアン国王都の中心に建つセルリアン宮殿。
 そこで王室付き専任魔法使いとして日々、こまごまと起こる雑多な業務にいそしむクリフにとって、これは見逃すことのできない重大な事件でもあった。

 正装でもある身につけた黒い袖無し外套をひらりとひるがえし、塩の前にすとんとしゃがみこむ。
 それから、胸ポケットからトネリコの木で出来た細長い小ぶりの杖を手に持つと、くるくるっとそれで螺旋を描けば、塩はたちまちの内に元のようなこんもりとした円錐状の山型に盛り上がるのだった。

 「…よう。久しぶり。ご苦労さんだな」

 背後から声をかけられ、クリフがしゃがんだまま肩越しに振り向くと、そこには見知った彼の姿があった。

 「これはこれはバレリアン卿…。大変失礼いたしました」

 慌ててクリフは立ち上がり、自身の胸の前で拳を握った腕を上げてうやうやしく礼儀を示すと、当の本人は「いいって、そんな畏まるなよ」とざっくばらんな調子で朗らかな笑顔を向けた。

 浅黒い肌。短く切りそろえられた金の髪。
 クリフと並ぶと、頭一つ分ほど背も高く、幅広い肩と鍛え上げられた屈強そうな体格のよさが、そのいかついまでの騎士服正装の上からでも際立つ。
 そんな彼の名はレッド・バレリアン・ルーバー。セレスト・セレスティアン国王室付き近衛騎士団団長を務めている男だった。

 「それで、いつこちらにお戻りになられたのですか」
 「んー。まだ日が変わる前だったから、昨日か、あれは」
 「それでは、今は辺境視察の報告の帰りで?」
 「まあ。そんなところだ。ところでよ、それ…」
 「はい?」

 バレリアンはクリフが崩れを直したばかりの盛り塩の塊を胡散臭げなまなざしでつんと指差す。

 「しっかし、いつ見てもガキの砂場遊びみたいだな、てさ。そんなんでちゃんと守れるんか、この王宮が、いや王都を含むセレスト・セレスティアン国の全部が」

 「ええ。もちろんそうでなければ。この盛り塩ひとつひとつは小さな効力しか持たない結解でもありますが、それらを見くびり、おろそかにしては、災厄を退け、魔道に与する者の進入とて未然に防げません。これもまた王室付専任魔法使いの…下位ではありますが…私の大切な務めに他なりませんから…。ですから、確実にその仕事を全うすることが、今の私の重要な任務でもあるのです」

 クリフは控えめながらも、自身の仕事に対して誇りを持ち、ささいな日常業務でもけして手を抜くことなくこなしていることを実に堂々と、気後れすることなく、バレリアンに言ってのけた。

 そんな情熱あふれる若い魔法使いに対し、バレリアンは心から惜しみない拍手を送りたい気分にかられながら、ひとまずにっと満足げな笑みをもらした。

 バレリアンとクリフは、彼が正式に王室付き魔法使いとして宮殿内に参内するようになってからのつきあいなので日も浅く、まだそれほど互いの懐深くにするりと何でも踏み込めるほど深いものではない。

 だが王室付き専任の上位の魔法使いに比べ、年齢的にも近く、またごく親しみやすい人柄から、自然に会話を交わす機会も増え、今では気さくな友人同士の関係ともいえる間柄だった。

 確かに騎士団員と魔法使いという部署の異なる二人ではあったが、宮殿内にて折に触れ、顔を合わせればその都度、それぞれの職務がらみの相談事や、貴重な意見を交換することも多く、誰の追随も許さないほど、かけがえのない絆で結ばれているのだった。

 「それに、どんな瑣末な物事は何でも信じて行うもの、いわば“鰯の頭も信心から”、と申しますよ」
 「なんだあ、そいつは」

 いきなり話が飛躍した感があり、どういう意味かとバリレアンは小首をかしげてクリフに疑問を投げかける。

 「遠い異界の小さな島国に伝えられている“諺”というものがありまして、それらのいわば格言にも似た多くの記述を収録した事例集に記載されていました。どんなちっぽけなものでも頭を下げて祈れば、即ちそれに神が宿るそうですよ。たとえ鰯の頭の如き、ものでもね」

 「ふうん。どうもなんだか、ちんぷんかんぷんでさっぱりだな」

 「それでしたらあなたも一度お読みになられるといい。幾冊か貴重な文献が手元にありますからお貸ししますよ。いつでもお申し付けくださいませ」

 「はっはっはっ。それはちと御免被るよ。そんな高い教養なぞ身につけても、俺ごときが王室付き専任魔法使い殿の足元にも及ばないからな」

 豪快に笑い飛ばすと、そばに控えていたクリフは「そんなご謙遜を」と軽くかわした。
 彼の被る緑の縁なし帽には下位を示す白金の羽根を模した徽章が、そして一方バレリアンの被る紫紺の縁なし帽には、最上位を示す金の羽根を模した徽章が燦然と輝いていた。

 「王室付近衛騎士団団長レッド・バレリアン・ルーバー卿ともあろうお方が何を仰いますか。仇名である“赤い雷電”のその名にふさわしいあなたさまは、人望・頭脳・体力、どれをとっても人並み以上の能力に秀でていらっしゃるからこそ、その若さでかような大任の務めを無事果たされ、王の覚えめでたくご出世もトントン拍子に進まれておるのでしょう?」

 「そ、そう手放しで並べ立ててくれるな。…ええい、この俺を褒め殺しする気か、おぬし」

 「いえいえ、私は単なる事実を述べたまでのこと。それで、いかがでしたか。今回の視察は…」

 「ああ、さらに最悪な事態に陥っているようだな」

 じゃりっ。いらつきながらバレリアンは自らの短い髪をかきむしった。

 「例の――無の繁殖ですか」
 「そうだ。今度のケースは今までで最も酷い。何しろこまごました場所や人や家々などを含むせいぜい周囲半径五百メキトル程度といったささいなものじゃない。ひとつの村、町、森や川、林に至るまでそれら丸ごとだ。地図に描かれた該当の場所が、忽然と跡形もなく消えうせているんだから、そら恐ろしくなるのも当然ってもんだぜ」

 思い出しただけでも身の毛のよだつ感覚が甦り、彼はぶるりと背筋を震わせた。
 バレリアンたち近衛騎士団が年に二度ほど定期的に派遣され、実施する辺境地域視察。
 通常、特に異常なしで報告されることが多いその視察時、彼らが遭遇したのはある奇妙な現象だった。

 それは――突如として事物が消失するという事実だったのだ。

 最初はあまりにも突拍子もないことでもあったので、冗談かと思い、さほど気にも止めず放置していた。

 何しろ家の窓枠がないとか、玄関のドアがついていないとか、街道の煉瓦が途中で切れているとか、畑の一角がすっぽりと丸抜けになっているとか、本当にその程度のささいなものにすぎなかったので。

 だがこうも相次いで各地でその消失事件が同時発生した上、確実に大規模な広がりを見せているというのに、近衛騎士団の視察時以外、どこからも一切報告が上がってこないというのはいったいどうしたことだろうか。

 かような現象に対しての、彼ら地域周辺住民の異常なまでの無関心ぶりにはバレリアンをはじめ騎士団全員が呆れるを通り越して、どうにも不気味さを感じていたたまれないほどだった。

 「…前に見た時と同じだ。特に何も変わらない。俺たちは消失した場所の一歩手前の所に立って先を見てみたが、その向こうには何もないのだ、本当に。白い霧に包まれているが如く、視界はいっさいきかない。手をのばしても何もつかめない。地面があるべきところに触れても、底なし沼のようにどこまで空間が広がって続いているだけだった。あれは…本当に恐怖だった」

 しみじみとバレリアンはつぶやきながら、頭をかばり振った。

 「それで、上の位の専任魔法使い殿はなんと?」
 「早急に調査の必要あり。…ただそれだけだ」
 「調査はもとより、もっと早く手立てを打たないのですか。これ以上進行すれば…」

 この怪事件については、まだ王宮内でも王と一部の摂政、それと王室付き専任魔法使いたちと近衛騎士団ぐらいにしか情報が伝達されておらず、末端の侍女や賄い夫などをはじめ国内の臣民にも諸外国にも一切伏せられているが、このまま隠しおおせるものではないということは、さほど事情通ではないはずの下位の魔法使い職に就くクリフとて明確な事実だった。

 「もうずいぶん勢力の拡大は広がっていることだろうな。数ヶ月前に俺たちが訪れたはずの国境いにあったはずの寒村はもとより、都市部近くまで進行しつつある。早く何らかの行動に打って出ないと、食い止めるなりなんなりの手段を講じなければ、こんな悠長に時を過ごしている暇なんぞないほど、やばすぎるってことくらいは、俺の足りない頭でもよくわかるよ」
 「しかし、それに即した有効な手立てが、ない」
 「そこだよ、そこ。だからこそ頭が痛い問題なんだよなあ」

 …さらり。彼らが会話を交わしているそばから、そのたった今目の前でまた唐突に盛り塩の山が崩れ、床に白い塩の敷地がだーっと広がった。

 「…うへぇ。なんだあ、またかよ」
 「…なんということでしょうか。これはまさに由々しき事態ですよ、本当に」

 クリフはさっと懐から水晶時計をはめこんだ懐中時計を取り出した。
 文字の書かれていない文字盤の上にはめこまれたムーンフェイスの窓の前後を短針と長針がしきりに移動し、絶えず秒針がくるくると回り続ける。
 そんな一風変わった時計に視線を落としながら、クリフはぼそりとつぶやくのだった。

 「…世界の秩序の破れ目。もしやこれが二十年前、この国を襲ったかの悲劇の再来、その前触れなのでしょうか」

 だとしたら、もう一刻の猶予もなりませんが。
 クリフはきゅっと唇を引き結ぶと、崩された先の盛り塩に視線をやり、それから窓の外に広がる空を凝視するのだった。

 彼ら二人が抱く危惧など、あくまでも我知らずといった感さえある、どこまでも青く、澄み渡るきれいな空を――。

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