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 お、おはようございました(爆)

 あいかーらずのやまの某です。
 おかげさまで旅行から無事帰りました。
 そんでもって…やっとできました…part:4(´д⊂)

 思い入れが大きすぎてムダに長いというか、もうちょっとコンパクトにまとめられないのかと我ながら反省するのですが、
(特に前半。必死の思いでティーナが屋根の上に立つまでが長いよね!)
それでもどーしても彼女の必死な様子が書きたくて(恋する乙女だからね!)妙に描写に力を入れてしまいました(^^ゞ

 最近某アニメにハマったおかげでこれまであまり読むことのなかったテキストサイトさんものぞいているわけですが、どこも大抵そんなに文章量多くないのな…!
 さらりと、でもちゃんと肝心なことは省いておらず、必要最低限の地の文とセリフがあれば、物語の内容というのは通じるのだということがとてもよくわかって、己の文章修行に最適というか、これまでの考えを改めろという教訓になります。
 やっぱり人様の書く文をたくさん読むのは、自分の文を磨くためにも重要なことですよね…!(今さらですかそーですか)
 でも実際、自分が書くとなると、どーしても本来の自身の書き方になってがーっと言いたいことを詰めてしまうんですよねー。
 うわ、ちっとも振り返れていないよ。
 アイタタタタ…(´д⊂)
 
 何はともあれ、竜=ラズリとティーナのラブな場面(言い切る)が書けて大変満足いたしました♪
 あいかーらずあの二人が顔を突き合わせると必ず派手に大喧嘩をおっぱじめてしまうので、どうしたもんかと思いましたが、竜になったおかげもあって、なんとか互いに歩み寄ることができたような気がします。
 でもやっぱり、どこか一歩前進二歩後退な気がいたしますが(つまり全然進展がないってことか;)…。
 
 これまで総ウケなティーナを書いてきましたが、ラズリ相手だとティーナ攻めに転じるのかも!? 
 いやいや、この場合襲いウケ!?
(誘いウケとともにワタクシの好きなパターンですが♪)
 同級生同士ということもありますので、レヴェル的には同じような気がしますから、こんな感じなのかなと思いつつ…。
 狙っていたようなあまり糖度の高い感じにはなりませんでしたが、
(あれでじゅーぶんだよ…と言われるかもしれません、いさなさんには(^^ゞ)それでも二人の距離が近づきあっているようなので、人間仕様での再会時にどんな感じになるのか楽しみです!
 きっとお互い積もり積もったことが多すぎて、何も言わず真っ赤になったまま互いをじっと見つめあったりなんかしちゃって、アガシ辺りに「おいおい。そこで二人の世界を作るなよ」と無理やり間に割ってこられたりするんだろうなー。
 はー。かわええ…(〃´o`)=3

 今回もあからさまにギアスネタ(+鋼もあるのかしらあの説明…;)なんか入れておりますが(だってあれすごくかわいかったんだもん! ナナリー! 幼少トライアングル・ネタ大好き!)まあ、お遊びということで許してつかぁさい(^^ゞ
 旧岩崎邸を彷彿とさせる金唐紙を壁に貼ったデヴォンシャー家(オリエンタルとかシノワズリィとか単語が入るとさすがに異世界物ではマズイと思って苦肉の策で「異国情緒」…。でもラズリには「アリかよ」とか「スットコドッコイ」とか、ありえないくらい現代語でスラングな言い回しをさせてしまいましたが、この際雰囲気重視、です; 重箱の隅をつつかれるとイタタタですが;)

 それではさんざ前置きうるさいことこの上ありませんでしたが、続きへGO!です。
 そして、自分担当回はまだ続きます。。。
 ごめんねいさなさん~<(T◇T)>
 あ、あと…二場面(爆)

 ティーナは広いデヴォンシャー家の屋敷内を、ただ一心不乱に駆け続けていた。
 まず、探したのは上階に続く階段。
 彼女が屋根の上に出るには、ともかくそれが大前提の必須条件でもあったからだ。
 そしてそれは案外、実に拍子抜けするほどすぐに見つかった。
 しばらく続いた壁の切れ間に突如ぬっと現れたその階段は、広くスペースが無駄に取られていた上に、豪華な絨毯張りが敷かれていたものだった。
 それに気づいたとたん、ひょっとしなくても、ここがいわゆる屋敷のメインの大階段であろうということぐらい、彼女にも容易に想像できるほど、ひとつひとつの要素が如実に物語っていたのだ。
 まずりっぱな手すり付に加え、階段デザインもくるりと優雅にシェイプされた螺旋状ときて、しごく凝った蔦植物を模した装飾もふんだんに、見た目美しくかつ流麗だったので。
 さらに挙げればキリがないが、階段の壁一面を覆う極彩色の金唐紙も、踊り場にしつらえられたコーナー台に置かれた大輪の花々が美しく生けられている大きな七宝の壷も、どことなく異国情緒にあふれ、絢爛さを際立たせており、見る者に感嘆のため息すらどことなく漏れて聞こえてきそうなほどである。
 地方とはいえ、さすが旧家で名家を誇る、領主・デヴォンシャー公の屋敷だ。どんなささいなことでもけして抜かりなく、まこと贅を尽くした限りにおいては王都の王宮、セルリアン宮殿にもけしてひけを取らないせいでもあろう。
 しかし、今のティーナの状況下ではそんな建物の造りの立派なことなど、この際二の次、いやさらに言うなればどうでもよいことの一つでもあった。
 彼女は今、そんな瑣末なことに心奪われ、興味・関心を割いている余裕などは一切なかったのだ。
 ティーナの心を占有するのは、ただひとつの事柄のみ。
 故に、それ以外には何ら目もくれず、ただただひたすら上へ上へと、息をぜいぜい弾ませながら、階段をかけあがり続けるのだった。
 そしてやっとのことで到達する、終点の最上階。
 残念ながら、ここより上にはもう行けないということを、それは無情にもきっぱりと彼女に告げていた。
 ところがティーナが目指すのはさらにその上、屋根の上である。
 ここからさらに上階に行くにはどうしたら……。
 肩をひどく上下させるほど荒げた息を整えつつ、ティーナは焦りのためか、ややもすると乱れがちになる思考をひとまとめにすべく思案に暮れた。
 これだけの規模を持つ広大なお屋敷であるならば屋根裏部屋、もしくは人一人がやっと入れる程度の小部屋がきっと設けられている、そのはずで…。
 そこに至るにはたぶん、この階上からもっと上に行く階段室がどこかにきっとある、絶対にあるはずだから――。
 そんなわずかながらの確信を胸に秘め、ティーナが周囲を注意深く見渡していく、と――。
 すると、ほどなくして。
 彼女が目当てにしていたものとほぼ同様、願った通りのものが視界に飛び込んできて、そのとたんぱあっと表情を輝かせるのだった。
 「…あった。きっとあそこから行けるわ、よかった」
 思わずついと出てしまう独り言。
 ともすれば見落としてしまいそうなほど、それは古ぼけてこじんまりした小さな木の扉。
 彼女が探索を始めてからものの数十秒も経たぬうちに、それを探し当てることができたその喜びのあまり、薄淡い桃色の唇からそんな言葉がこぼれてしまうティーナだった。
 さすが学院校内でも、ほとんどの者が入学してから卒業までの間に、たぶん存在さえも知らないままであろう、高い時計塔に続く裏階段が最も気に入りの場所なだけある。こういうことにかけては、彼女の勘もあながち捨てたものはないのだ。
 逸る心を抑えながら軽くドアノブを回す。幸いなことに、鍵はかかっていなかった。
 それを知った上で、思い切りよく扉を押すと、そこには先の大階段とはうって変わり、実に簡素な作りのはしご風の木の階段が現れる。
 それを目にするやいなや、ティーナは何の躊躇もなく、ぱっと階段に飛びつくと、やおらそれを昇り始めた。
 狭い部屋の作りに沿うよう、ゆとりある傾斜をつけられてはいない、急勾配の階段。
 昇り手の苦労など露知らずといった感のある、手すりすら設けられていないそれの両脇を手でしっかりとつかみながら、えっちらおっちら昇っていくと、やっと人一人が腰をかがめて入る程度の高さしかない、狭い空間にたどりつく。
 光あふれる階下の部屋とは全く異なり、かなり薄暗い屋根裏のスペースではあったが、それでもわずかながらに光源は存在していた。ティーナが両手を広げた分ほどの大きさの天窓から射しこむ陽の光がそれだった。そのため、彼女が当初思っていたよりもずいぶん視界はきき、部屋を横切るのにさほど不自由さは感じなかったのだ。
 ティーナはひどく乱れた呼吸をものともせず、はしごから足を離すやいなやひざをつき、四つんばいの格好のまま、その目当ての天窓に向かって匍匐前進しはじめた。
 あとで洗えばそれでいいやと、制服やスカートが埃で汚れることなど何らためらわなかったのは年頃の女の子にあるまじきことではあったが、この際かまっていられない。
 そうして彼女が埃のたまった床をしばらくじりじりと進んだ後、やっとのことで部屋の向こう端までたどりつく。
 それから、しっかりと固く閉ざされていた鍵を開けるべく、螺旋をくるくると指先で回して引き抜き、いきおいよくばっと窓を大きく開け放つ。
 ――とたん、ぶわっと室内へと吹き込んでくる風。
 その風圧に一瞬、室内側へと押し戻されるような感覚を覚えたティーナだったが、すぐさまそれに反発するかのように、体勢を整え、ぐわっと窓の外に身を乗り出す。
 いいようになぶられる長くてゆるやかにウェーブがかった黒髪が、彼女の視界をめちゃめちゃに遮る。
 だがこれしきのことぐらい、何をくじけることがあろうか。
 そんな勢いで、ティーナはうんせと体をねじり、足裏を窓の桟にかけて、ひょいと拍子をつけて外に出ていくのだった。
 やっと着いた、念願の屋根の上。
 ティーナは先の匍匐前進の際に服についた埃や汚れをあらかた手ではたいて落としながら、すっくと立ち上がり、周囲を注意深くきょろきょろと見渡していく。
 竜は、どこにいったの? 竜は――。
 先ほど階下で窓越しに通り過ぎて行った竜を思い出し、その白く輝く鱗としなやかな体躯を持つ彼の姿を一心に捜し求める。
 その間、びょうびょうとその身に吹き付ける風には、さしもの彼女も閉口しかけた。
 だが、体の軸がぐらり揺れ動く度に膝を折りながらなんとかやりすごし、また体勢を整えるということを繰り返して、立ち位置を保たせるのだった。
 屋根の傾斜角度は先の屋根裏に続く階段に比べれば、さほど急ではなく、むしろゆるやかともいえるものに違いない。
 だがやはり、しじゅう身に受ける風の当たりがきついのが難で、油断すればそのままバランスを崩し、あっという間に屋根からまっさかさまに落下していきそうな恐怖をティーナが感じていたのも事実だった。
 何せここは三階建ての高さ、プラス屋根の上だ。
 こんな場所から落ちたとなれば、手足の一本二本折るだけではすまないだろうということは誰にだってやすやすと想像がつく。
 魔法に依らず空を飛ぶことがたやすく叶った幼少時の頃のままであれば、いくら逼迫した状況にいるとはいえ、こんな高さなどものともしなかったことだろう。
 だが、今は違う。
 学院でとうの昔に習ったはずの飛行術を思い出し、この場で即席に試すには箒という道具もいるし、術をかけるための杖も用意せねばなるまい。
 多少なりとも正式な用途・用法を守って魔法の力を行使するには、それ相応の触媒が必須となるのは当然なのだ。
 無から有は作り出せず、ありえない事柄ををありえるようにするためには、必ず代替物を介在して行わなければ。それがこの世における等価交換の原則でもあるのだから。
 しかし、残念ながらそのどちらもティーナには持ち合わせていない。
 そんな彼女にとって、死と隣り合わせともいえるこの現状に身を置くのはかなり危険な行為と言わざるをえないが、そんなことなどこの際ちっとも構ってなどおられない。
 何せ彼女が迎えるそのお相手は、学生にとってはむちゃくちゃ高次の魔法で召喚した竜に乗って飛来するような、とんでもなくやんちゃっこな王子さまなのだから。
 自分だってそれ相応の覚悟を持って挑まなければ。屋根の上に昇るくらい、本当に何でもないことだと思ってやってのけなければ。
 「来たわよ、あたしは…!」
 ティーナは大きな声を張り上げ、自分の存在が確かにここにあることを周囲に知らしめす。
 「ここにいるわ! あたしは、ここよ――!」
 そんな彼女の声に即座に呼応したのだろうか。敷地内に付随する屋敷森の向こうから、ぐんぐんと近づいてくる何か大きな飛行物体の姿をティーナは確実にその目にとらえた。
 そして、次の瞬間にはもう。
 デヴォンシャー邸の上空にそれは最接近し、彼女の頭上高く輝く陽の光をさっと遮った。竜は羽ばたきながら空中停止したのだ。
 屋根を覆う巨大な翼が太陽を遮ったためにできた、大きな影の下にティーナは立つ。
 竜はそんな彼女の姿を見止めながら、ゆっくりと降下しはじめ、そっと屋根の上に四肢を下ろし、ぱたりぱたりと本のページを閉じるように翼をたたんでいく。
 そんな具合に竜が屋根の上に確実に着地したのを確認するや否や、ティーナは声を大にして叫ぶのだった。
 彼の、名前を。その懐かしいまでに、大切でかけがえのない、自分にとってただ一人しかいない、意中の少年の名前を。
 「ラズリ……!」
 白き、竜。
 背に生えた大きな翼。
 しなやかでつややかな肢体。
 はるか見上げるその位置にある、顔。
 よくよく眺め入れば入るほど、ぷっくりとふくらんだ鼻の穴も、尖った歯がびっしりと並ぶ口も、らんらんと光る大きな赤い目玉も、どこをとっても異形の生物以外の何物でもない。
 いや、それどころか。
 彼女がこうして初めて目の当たりする竜は、神々しいまでも威厳さに満ちて、身震いすら覚えるような、到底同じ次元の生物とは思えない、どこか異なる世界のイキモノだったのだ。
 だが、不思議と恐怖は感じない。
 いやむしろ、こんな具合に間近で竜と対面するのはおそらく初めてというのも関わらず、かつて親交を結んでいたかのような、ごく近しい間柄にも思えてくるのだから、どうも何か縁(えにし)がありそうな雰囲気だ。
 ……こんな風に思えて仕方ないのは、あたしには竜に連なる血筋が脈々と流れているから? そのせいなのかしら、やっぱり。
 「ラズリ、どこ…! ねえ、あなた。そこにいるのでしょう?」
 てっきり竜の背にでも乗ってやって来たのかと思いきや、どこにも見当たらない。おかしい。こんなおかしなことってあるか。
 ティーナは思わず苛々と親指の爪を噛んだ。
 昔、さんざ両親から悪い癖だから早くやめなさいと注意を受け、完全に直ったはずだったが、こんな時にひょっこりと出てくるものらしい。
 確かにラズリはいる。その気配がする。
 竜の周囲のそこかしこから感じられるラズリの存在。
 その、はずだのに――。
 なのに、彼はちっとも見当たらない。…どうして?
 ティーナは少しずつ注意を払いながら立つ位置を変えては、目を凝らし続けたが、どこにも彼の姿などその目にとらえられなかった。
 北の奥地の山々を離れて、こんな辺境のファナトゥの地に揃って二頭も竜が姿を現したのならば、何かしら特別な理由があってのはずだ。
 召喚されたものであれば、必ず召喚者の存在もあってしかるべき。
 何せ、時折気まぐれに彼らが国内外の空を飛翔した報告があっただけでも、大きな報道がたちまちの内に国内に伝令が飛び、その動向には逐一警戒心を強めるのが常なのだから…。
 そんなティーナの困惑をよそに、当の白竜はやれやれとでも言いたげなためいきをしぼりだす。
 「…おまえは、相変わらず鈍いやつだな」
 唐突に竜が口を開いたかと思うと、その威厳に満ちた巨体からは似つかわしくない、えらく慣れた軽口が彼女の頭上に降り注がれた。
 その突然の出来事にティーナは驚きのあまりぎょっとなり、思い切りよく目を見開くのだった。
 ちょ…。ちょっと、待って!
 い、いいい今、竜が口訊いたわよね?
 自分の聞き間違えなんかじゃないわよね…!
 おまえって言ったっ。相変わらずって言った! 
 えっと、鈍い、って…?
 …どうして、そんなことを。しかも、なんでこの竜が…。
 ――あれ?  
 「よそ見なんかするな。だから、ここにいるだろ、ここに。おれは、おまえの目の前に」
 竜の知り合いなんてそもそも自分にはいませんけど…!
 そんなツッコミを入れたい気分にかられながらも、ティーナはじっと自分を凝視したまま見下ろし続ける白竜の顔をしげしげと眺め回した。
 ――まさか?
 竜の声など今ここで生まれて初めて聞く。だのにその、どことなく一方的な物言いと、やけに強気な態度には心なしか覚えがある。
 …いや、大有りだ。それよりも、有りすぎて時に辟易とした気分になるくらいまでの。
 ――まさか!
 ティーナはふいに自身の中でひとつの結論に達したらしく、あっと息を飲み、その場で凍りつくように身じろぎひとつせず固まった。
 そんな彼女の自分を見る目つきと、まるきり豹変した態度に気づいた竜は、そっと眦を下げながら「ご明察」とばかりに、にぃと笑みを浮かべるのだった。
 「そんな…竜が…ラズリだなんて。ねえ、本当にあなた、ラズリなの…?」
 「まあな。なんだよ疑ぐり深いな。それぐらいすぐに気づけよ。 おまえはさっき下の部屋でおれを見たからこそ、こんな屋根の上まで来たんだろう? だから、すぐにわかったと思ったんだが…」
 「そ、そんなこと言ったって…。し、しょうがないじゃない。ラズリが竜の姿になって現れるなんて、そんなこと誰にもわかるわけが。だってあまりにも予想もつかないことで、だから…」
 「だから? いいか、ちょっとは頭使って考えろってんだよ。おまえは既にアガシという例があることを知っているはずだろ? ならば、そういった可能性が他になきにしもあらずと、どうしてそこで発想の転換ができない?」
 「だって、あれは…! アガシは確か…一族だけが使えるとっておきの秘術だって。そう。前に言ってたんだもの、だから」
 「その、アガシからの直伝だ。頼み込んだら教えてくれたよ。…ま、渋々だけどな。おれもまさかこんなにうまくいくとは思わなかったが」
 それじゃ、やっぱり憑依の魔法…!
 アガシ、彼が鳥や馬などさまざまな動物を経て、一晩がかりでファナトゥまでたどりついた後、屋敷内の白猫に姿を移して自分の前に現れた時もかなり驚いたものだ。
 だが、それだってかなり秘密裏に、こっそりと誰にも気取られないようにと、ひどく注意を払って事を進めてくるだけの配慮はあった、そのはずで。
 しかし――ラズリは。
 いや、さすがはラズリだと言わざるをえないだろうか、この場合。
 そのやることなすこと全てが大胆不敵で、突拍子もないことといったら…! 
 他の誰をも追随など許さないぐらい、平気の平左で恐ろしい企みをやってのけるだなんて…! 
 なんともはや、手放しで感心するやら、心底あきれるやら。
 いやいやそれよりも、そもそも彼は何を考えてここまで事を荒立てて大きくする必要があったのか? ティーナにはそう、小一時間ばかり問いただしたいところだ、切実に。
 彼の意図はともかく、どうもよけいなことをしでかして、事態をややこしくした上、根本的な解決になどちっともなっていないような…。
 何よりも、いったいこんな大騒ぎを起こして、どうやって事態を収拾させるつもりでいたのだろうか…。
 そんな彼に対し、ティーナはもう、何があってラズリのやることだからと、その全ての行動に納得いくような気がして、もはやわけもわからずに、ただひたすら苦笑いを浮かべるしかなかったのだ。
 ――ラズリだって…? まさか、あの竜が…ラズウェルト?
 ティーナの後を追って屋根裏にたどりつき、彼女が開けた天窓から同じように身を乗り出したディルナスは、竜と彼女が交わす会話の内容の一部始終に思わず我が目と耳を疑うほど驚きを隠せなかった。
 確か耳口・目鼻からは、ラズリ――ラズウェルトがロータスの魔法学院きっての優秀な生徒であるという報告を受けていたが、憑依の魔法術などという技を体得しているとは未だに聞いておらず、実に寝耳に水の心境だったのだ。
 これは…後で詳細をうかがわなくては、な。
 ディルナスはそう思いながらも、風にいいようになぶられる自分の髪もそのままに、引き続きティーナと白竜…ラズリの動向を彼らのそばでじっと静かに見守り続けるのだった。
 「で…でも。なんでそんなことしてまでこんな場所まで…?」
 「…莫迦かおまえは」
 「ば、莫迦って…。ひ、ひどっ。何もそんな風に言わなくたって」
 ティーナはしごく真面目にもっともな疑問を口にして、彼に訊ねただけだというのに、ラズリはそれすらも無情に吐き捨てる。
 むろん、ラズリのことだ。それですむわけがない。彼女が目に見えて気持ちを昂ぶらせて、いつもの癖でかあっと赤面したとたん、その頭上からさらにぽんぽんと威勢よく突っ込みを入れてくるのだった。
 いつものように、いや竜の姿のせいもあろうが、普段よりも三割二分五厘ほど増して。これまでの数日間、彼女に会っていなかった時の分までもをこめて。
 「そんなわかりきったことを今さら言うか? っていうんだよ。わざわざ誰が好き好んでこんな場所までピクニックなんぞ来るわけがないだろう、が。しかも竜に姿を変えてまでも」
 「そ、そんなこと言ってやいないでしょっ。あたしはただ、ラズリがなんでここに来たのか、どうしてなのかって、ちょっと知りたくて聞いてみただけじゃない」
 「…おまえ、それ本気か? 本心からそう思ってんのか?」
 ティーナの言い分にぴくりと反応を示したのはラズリだった。
 もしも彼がそのまま人の姿であったなら、そのこめかみに怒号の印を浮かべ、目は血走り、口元を歪ませ、これから盛大に毒吐きがはじまるだろうということはたやすく予想がつく前触れだった。
 「まったくもって救いようのない莫迦だな。鈍い鈍いと常々思っていたが、まさかそれほどまで鈍感だったとは思わなかったぞ」
 「な…。それってどういう」
 再び莫迦と指摘され、さらに鈍感だと断言されたことにティーナはむうと口を尖らせて不満を募らせる。
 そんな彼女の態度はさらにラズリを煽らせるだけだったらしい。
 怒りゲージをがーっと振り切らせた後、とにかく罵詈雑言の限りを尽くして、彼女を全力でもって責め立てるのだった。
 「いいか、おまえ。おれがな、このおれがだな、今こうしておまえの目の前にいるこの事実を何だと思ってんだ、このすっとこどっこい! おまえだよ、おまえ! おまえの様子を見にはるばるロータスからファナトゥまで、わざわざ来てやったに決まってんだろーがっ。おかげでおれがここに来るまで、えらい苦労したっていうのに、なんだってんだよ、そのうすらとぼけた態度はっ」
 「よ、様子を見にって…。だって、アガシがさっき来てくれていたのに? それを、な、なんでラズリまでっ」
 「知るか。それよりも、まずおまえの方が悪い!」
 ふんっ。鼻息も荒く一方的にティーナを断罪するラズリ。
 「ったく、なんで勝手に決めたんだ、こんな遠いファナトゥまで一人でやって来るだなんて。それが一番の原因だろうに」
 「そ、そそそ、そんなこと言ったって…」
 招かれたのは自分一人。それを決めるのも自分一人。
 何せデヴォンシャー家が迎えによこした馬車はこじんまりした個人用で、付き添いは不要という要素がありありだったし。
 いや、そんなことよりも――。
 ただただ、ティーナはラズリをいつまでもごく私的な自分事に巻き込むのはこれ以上したくなかったのだ。
 彼が王族の一人、しかも次期王位継承者でもある皇太子・ラズウェルトであるという素性をミランダの術に堕ちた時に知ってしまった。
 以来、彼とは単なる同級生という間柄以上に関わることを極力避けなければと、自分に誓いを立てていたからだ。
 それではなくても、先の事件で幼少時の記憶が甦って以来、なんとなく彼のそばに自分が居続けてはならないような気が常にしているほどで。
 自分がいらぬことを彼に吹き込んだおかげで、手ひどいケガを負わせた上に、今だに自力で空を飛ぶ夢を捨てきれぬまま。
 一人王宮を離れ、護衛もつけず、偽名を名乗ってまでも、お忍びでロータスの魔法学院に在籍し続けている彼の心情を思えば、これまでと同様、ある程度の距離を保って接しなければと強く思うのだ。
 彼の本当の姿を知る者が、そばにいては、近ずきすぎては、けしてならない。いずれ何らかの折に、自らそれを露呈させてしまう羽目になるやもしれぬ。
 そんなことになれば、どれだけ学院中が大騒ぎするだろうか、それは火を見るよりも明らかで。
 ゴシップ好きの新聞部などが、こぞってあることないこと記事に書き立てるだろう。
 どうしても興味本位で近づいてくる輩や、遠巻きにしながらも噂好きな連中らの格好の餌食となって、さらにますますその身が危険にさらされることも増えていくに違いない。
 それがティーナの一番恐れていたこと、だったのだ。
 だったはず…。なのに。
 ……なのに、会ってしまった。
 竜の姿を窓越しで目にしたとたん、ラズリのことをいっとう先に思い浮かべて、直に顔を合わせたくてたまらなくなった。
 そして彼は、今ここにいる。竜の姿となって、自分の目の前に。
 相変わらず学院にいる時と同じ、何を憤ることがあるのか、一人でかっかかっかと頭から湯気が立つほど怒りを露にして。
 それでもティーナには、どんな形であれ、ラズリとこうして会話を交わせることが何よりも嬉しくてたまらないのだった。
 「しかもここはファナトゥだぞ? デヴォンシャー家なんだぞ? おまえ、わかってんだろう、ここがおれとどれだけ縁が深い場所だっていうことが。なのに、それを承知でこのおれに何の一言の相談もなく招きに応じるというのは、いったいどういう了見でやったことなんだ?」
 「だ、だだだ、だってそんなこと言ったって、仕方がないじゃないっ」
 ティーナはしどろもどろながらも、真っ赤になってとりあえず反論しはじめた。
 確かにこうして再会できたことは喜ばしいことこの上ないが、これ以上黙っていたが最後、ますますラズリから一方的に責められるだけに耐えきれなくて。
 しかも、相手は竜の姿。まさに自分の頭上にその大きな頭部があるのだから、文字通り頭ごなしに叱り飛ばされるのは、自身の耳にもつらいものがあったので。
 「昨日はラズリもアガシもまだ反省室から帰って来なかった時だったし、迎えの馬車がもうすぐ下に来ていて、あたしが行くのを待っているだけだっていうし…」
 「それでおれやアガシにも挨拶なしか。ずいぶんな仕打ちだな」
 やれやれとでも言いたげにラズリは吐息混じりにつぶやいた。
 「その程度の扱いだったのか、おまえにとっておれは、おれたちは」
 「んもぉ、だからそうじゃないの…! 大体カレンやセレにだってお別れの挨拶をしたくてもできないほど、とにかく急だったんだから! それにそもそも、その時間、ラズリもアガシも校内にはいなかったでしょっ、てば」
 どうして自分の話を理解してくれないか、やむをえず切羽詰った状況にいたことをわかってくれないのだと、憤然と言い返すティーナ。
 だが、ラズリはそんなことなどはなから承知、どうせ後から付け足しただけの言い訳にすぎないとでも思っているようで、彼女の説明にも全く取り合おうとせず自分の話をさらに続ける。
 「…だいたいおまえ、守り石だけディーンなんかに預けて、それをおれに託ければ、事が丸くおさまるとでも思ってたのか?」
 「そんなことは…!」
 ティーナはラズリの自棄にも似た、すてばちに吐き捨てたセリフに多少語気を荒げて反発を強める。
 「違うっ。そんなこと、あたしはちっとも考えてないっ」
 「じゃあ、どうして…!」
 「…だって、だって! もしもまた、すぐにミランダ先生がラズリを狙ってきたらどうするのよ? そんなことがあったら大変だって思ったんだもの。だから、ああするしか…。あの石、先生すごく苦手そうだったし、あれならラズリをきっと守ってくれる、何よりも確かなお守り代わりになると思って、それで…」
 「たったそれだけのことでか?」
 「それだけって…。何を言ってるのよ、それがいちばん重要で、大事で、特別気がかりなことに決まってるじゃない。ラズリの…ラズウェルトさまのお命が、王族の方のお命が目の前で狙われているというのに、みすみす見捨てることなんてできない。そんなこと、到底できっこないでしょうっ。そんな風にいつ何時だって予断が許さない状況だのに、それに対して何ら手立ても打てないだなんて。そんなのいやだものっ。だから、だからあたしは…」
 「おれが王族なのはこの際関係ないだろう」
 ティーナがふいに口にした自分と彼女との隔たり、公の身分の件がよほど気に障ったらしい。ラズリは猛然と怒りを露にし、ぴしゃりと彼女の言い分を封殺した。
 「何もここで下らない大義名分なんかふりかざしてどうする。そんなつまらんことでおまえの守り石を放棄する理由になるか。あれは元来、おまえ自身から出でし力の源、それの結晶体なんだ。それを本体と分離させたら、何ら効力など発揮しない。それこそ意味のないガラクタ以下の代物にすぎなくなる。その身を守るべき大切な形代、たったひとつの術をしのごの理由をつけて手放すなっ。それを心配するこっちの身にもなってみろってんだ…!」
 びくっ。頭上からかんかんと降り注ぐラズリの怒号にティーナは肩を震わせ、目をぎゅっとつむり、表情をひっと歪ませた。
 いくら中身がラズリとはいえ、外見はまったくの竜そのものなのだ。
 一声、発すればその轟きは千里四方を駆けるとも言われる竜の咆哮。それを直で受けるのだから、どんな頑丈な体躯を持つ気丈夫であろうと恐ろしさに震え上がり、しばしその場にて打ちのめされるのもいたしかたない。
 しかもティーナは年端もいかぬまだ齢十五の少女でもある。
 生まれて初めて接近する竜のその大きさと迫力に、ひるまずたじろがずにこれまで対峙し続けているだけでも相当の覚悟と度胸がいったはずだ。
 そんな彼女が、彼に怒鳴られて今どれほど恐怖におののいていることか。そのひどく怯えて小刻みに体を震わす様を眼下にとらえたところで、やっとラズリは我に返るのだった。
 「――悪い。そもそもこんなところまで来て、罵り合いなどするつもりはなかったんだが…」
 先ほどとはうって変わった大人しい態度の上、かなり声のトーンを落としたラズリは、ひどく沈みきった風体で詫びの言葉を素直につづりながら、やや前かがみの姿勢を取る。
 まるでそれは心の底から反省した態度そのもの。
 「すまない、許してくれ」と、心から謝罪の意を彼女に表明し、自分に抱く恐れを解いてもらいたいと懇願するかのようでもあった。
 「だけど…。でも、まあ…。よかったよ。元気そうで。それだけがわかっただけでも、まず安心した」
 「そ…。そうか、な。それは…どうも」
 ティーナはおっかなびっくりとしながらも、ラズリの自分のことを案じる気持ちに応えようと、ゆっくりと目を開き、震えていた自分の指先をほぐそうとするように、両手を幾度となく組みなおした。
 ラズリの目にはそんな元気そうに…見えるのかな、あたし。
 実は案外、そうでもないのだけれど…。
 とは、さすがにこんなところまでわざわざ苦労を重ねてやって来てくれた、大切な想い人の前では、弱音を吐いたり、気に病んでいる素振りなど、とても見せられないと思うティーナであった。
 アガシが自分の前に現れた辺りまではまだよかった。
 だが、その後に続くミランダの乱入、ディーンの鏡像(ミラー)の出現、そしてディルナスとのやりとりに至っては、衝撃の連続で心休まる場面などついぞなかったのだから。
 「――泣いているんじゃないか、って思ってた」
 「え…?」
 急にそんなことをぼそりとつぶやきだした彼に、ティーナの方がいきおいどきりとさせられてしまう。
 「…おまえがまた、一人でべそべそ、部屋のすみっこの方で何もできず途方に暮れて泣いてるんじゃないかって、そう思ってんだ。だから、そんな姿はもう見たくないと思って。それで、様子を…。…いや、違うな」
 自分でもいったい何を言いたいのだか、よくわからない。
 こういう場面ではむしろ降参して白旗をあげたいほどお手上げだ、とでもいうように竜はさらに低く首をもたげた。
 「おれは、たぶん…。きっと、おれ以外の他の奴なんかにお前の泣き顔を見せたくなかったのかもしれない、なって…。そう、思って、だからおれは」
 「ら、ラズリ…?」
 「だから、会いたかった。…一目でもいいから、おまえに会って、その顔を見たかったんだ」
 わずかばかりでもいい。この目で実際にティーナの無事を確認したい。
 そんな思いにかられて、ただひたすらに突っ走った行動を取ってしまったラズリだったが、いざ実際にティーナとの対面を果たしとたん、喜ぶべきよりも前にまず怒鳴りつけてしまうとは、いったいどういうつもりなのだか…。
 本当は、そんなことなどしたくなかった、
 会えて嬉しいと素直に彼女に伝えたかった。
 しかし、どうしても彼女、ティーナの前に立つと、自分がどんな言葉を選べばいいのか、まるでわからないのだから、おかしな話だな。
 ラズリは自嘲気味にふっと笑いながらも、自分の目の前に立つふわふわの髪を風になびかせながら、こちらの様子をじっとうかがっている彼女を見つめ返した。
 でも今なら…言えるだろうか。
 こうして、アガシから秘伝の憑依の術を使って竜の姿となり、彼女を見下ろす位置で向き合っているこの時であれば。
 普段であれば、とてもじゃないが口に出せないようなことであっても、何ら躊躇なく、思ったことをそのまま並べ立てられそうな気が、とてもする、ので。
 だから――。
 ラズリ、白竜はおもむろに口を開くと、立て板に水の勢いもいいところ、自身の中で積もり積もっていた想いをだーっとのべつ幕なしに語りはじめるのだった。
 「反省室でも…ずっといろいろなことを考えていた。なのに、出てきたらおまえはおれの前から忽然といなくなっていたなんて、さ。これはいったいどういうことだ? そんなのアリかよ? ディーンから石を渡されたって、アガシがおまえに会ってきたって言っても…。おれは蚊帳の外だ、いつだって。それはいったいどういうことだか、おれの方がむしろ聞きたいくらいだ。だからおれは、おれ自身の目でおまえの姿を確かめに来れば、それがわかるかもと思って、それで来たんだ。…会いたくて、おまえに。ただ、その一心で。そしておまえを…この背に乗せて、ロータスへ、学校へ連れ帰るために」
 「………」
 彼の思いがけないセリフに面食らい、ぽかんとティーナは口を開けたまま、こちらの様子を静かにうかがっている竜の顔を眺め続けた。
 ――ねえ、ラズリ。
 あの…ね? ラズリ。
 それって…どういう意味で言ってるか、自分でわかってる?
 なんだかすごく、自分がちょっとだけでも自惚れてもいいよって、あなたから直接言われているような気分になってしまいそうなんだけど、あたし。
 …でも、きっと。たぶんいつもの、あなたのことだから、本当はそうじゃあないんでしょう?
 だけど――。
 その言葉、覚えててもいい? 
 あたしだけは、忘れないままでも、いい…?
 だって今、あたしの耳に極上の天の美空から音楽が鳴り響いているような、そんな気持ちでいっぱいなんだもの。
 ティーナはいつしか自分の気持ちがふわふわと舞い上がりそうになり、次第にそわそわと落ち着かなくなるのを気にしながらも、その場から動けずに立ち尽くすばかりだった。
 一方、ラズリは、しばらくじっと黙したままでいる上、少しだけ上気しかかった頬を手で抑えながら、そっと自分を見つめ続けている彼女を前にして、はたと現実に戻った。
 実はもしや、ひょっとして自分は何やら妙なことを口走ってしまったのか…?
 そう思ったとたん、急に焦りだし、自らをフォローするかのように慌てて早口でまくしたてはじめる。
 「あ、だ、だからアガシの奴が、さ…! へ、変なこと言うからなんだ。猫になっておまえと…その、抱いてもらって…気持ちよかったとか…なんとかって、だから」
 口にしてから、またもや余計なことをティーナに吐露してしまったことに気づいたらしいラズリは、さらに全力で言い訳に努める。
 「いや、違うんだ。それはだな、別に深い意味はなくって、そのままの意味でっていうか。…う、ううう。そ、それはいいんだ、それよりも。いや、その…。な、なんなんだ、何言ってんだおれ。だから、要はそういうんじゃなくて…」
 そうして、段々収拾がつかなくなっていくに従い、ますます墓穴を掘り続け、ひっこみがつかないままのラズリは、とうとう最後に一言だけ「ごめん」とつぶやいたきり、黙りこくる。
 「あ…」
 あ、あはっ。何それ、ラズリったらっ。おかし…。
 ティーナはそんな彼のいつものクールな態度とは全く異なる妙な素振りや慌てぶりを目の当たりにして、お腹がよじれるほどおかしくてたまらなくなってしまう。
 「あははははっ。ラズリそれ、あはははっ」
 「お、おいティーナ。それ、ちょっと。いいかげん、笑いすぎじゃないのか…?」
 「だ、だってラズリったら…。ラズリったら…。おかしいわよ、それ。何なの…もうっ。いやーっ、おかしすぎるぅ」 
 うふふ、あははとひどく笑い転げながら、いつしか自然に目元が潤みだしてきてしようがなくなってしまうティーナだった。
 何度かまぶたをしばたいた後、そっとこぼれた雫を指で拭い取ると、それに気づいたラズリはぎょっとして勢いづいた。
 「あ、あのなあ。言ったそばからそこで泣く奴があるかっ」
 「そ、そんなこと言ったって。も…もう、らめえっ。あは、あはははっ。ラズリったら…!」
 「いいから、もう黙れ!」
 ラズリは照れ隠しのせいなのか、一声発するとさっと手をあげかけたが、どうも思いなおしたらしい。
 すぐにぱっと下ろすと、やはり考えなしだったかと、自身の行き当たりばったりな行動をひどく悔いるようにためいきをつくのだった。
 「…悪い。忘れてたよ。今、竜に憑依していたんだったよな、おれ。あの、さ。昔、さ…。すごい昔の話、なんだけど。おれの乳母から涙には人の体温が効くって聞いたことがあったから、それで。でも、こんなとがった爪なんか生えた指でおまえの顔に触れたら、たちどころにケガさせてしまうだけだったよな…」
 「ラズリ…?」
 「ああ、ちくしょうっ。何もこんな時に限って。ったく、こんなんじゃちっともしまらねえな、おれ」
 ぶすっとした不満げな声音でまだぶつぶつと何やらつぶやきながら、ぺたんと屋根に顔ごと平伏する白竜。
 そのどこか、駄々をこねた子供のような、いかにも面白くないと言いたげな態度を取る竜の姿に、ティーナはしごく「かわいいな」と思いながら、くすくす笑みをこぼした。
 「ううん、そんなことないよ。そんな風に思ってくれているだけで、その気持ちをうちあけてくれただけで、とっても嬉しいもの」
 ティーナはなんといっていいのかわからない、ラズリに対するほのかな思いのまま、やもたてもいられず、そっと両手を広げて彼の鼻先辺りを抱きかかえるかのようにぴとっとくっつく。
 それからおもむろに。竜の口元に自分の唇を寄せて、軽くそっとくちづけるのだった。
 「――ありがとう、ラズリ」
 竜は一瞬のことでいったい何が自分の身に起きたのか、すぐには頭が回らなかった。
 だが、かすかに触れたくすぐったいばかりのその感触に気づき、その大きな大きな眼をさらに大きく見開いて驚きを露にする。
 それから、やがてどうにもため息をつきたい衝動にかられながら、やや目を細めていかにも残念無念とばかりにぼそりと独りごちるのだった。
 「……この際、竜の姿じゃなかった方が、よかったかもな」
 すると、その直後のことだった。
 ずくん…!
 「つ…っ! あ、頭が」
 ラズリの脳に貫かんばかりの鋭い痛みが走り、こらえきれず彼はその場で巨体をもだえさせた。
 「ラズリ…? どうしたの? 大丈夫!」
 突如起こった異変に気づき、彼の身に何事が起きたのか、さらに詳しく様子をうかがおうとティーナは再び竜への接近を試みる。
 だが、ひどく暴れる彼の元へは近づこうにもうまくいかず、しまいには勢いよく振られた竜の頭に体が当たりそうになり、それを避けようとしたがために、その場にぺたりと尻餅をつく羽目となった。
 「ティーナ、よせ! 近づくと危ないっ」
 その様子を傍目で見ていたディルナスはやもたてもいられずに、ティーナのそばへ駆け寄ると彼女の体を背後から抱き起こした。
 「ディルナス…さま? あ、ありがとうご、ございま…す」
 「礼には及ばないよ。まったく、ずいぶんな無茶なことをするね、君も。あれの中身がラズとはいえ、屋根の上で竜と格闘するつもりなのかい?」
 「――! ええっと…あの…。その…。ディルナス、さま…?」
 「ははは…。ラズリがラズ、ラズウェルト皇太子の偽名だっていうこと? それくらいこの僕が知らないとでも?」
 ディルナスの口から“ラズウェルト皇太子”の名が出たとたん、さっと顔色を変えてぎゅっと身を固くするティーナに対し、その緊張を解こうというのか、彼はくすくすと愉快げな笑みをもらした。
 「君が知っているくらいなんだから、僕ならなおのこと。むしろ当然、だろ? 仮にも彼の従兄弟なんだからね、僕は。彼がロータスの魔法学院に入学して以来、会う機会はほとんどなくなってしまったけど、この家に出入りしていた昔はしょっちゅうつるんで遊んでいた仲だったから。…本当の、兄弟のように」
 ティーナを再び立たせ、そして彼女の体を後ろから両手で抱きかかえるようにしっかりと支えるディルナスだった。
 そんな彼の心配りにはとてもありがたいと感謝の念を抱きながらも、しかし一方、ぴたりと密着しているが故に伝わる彼の身体の感触と体温に気づいたとたん、ティーナは妙に意識しだし、胸の鼓動をばくばくと高鳴らせはじめるのだった。
 『…そろそろ潮時のようだな』
 『待ってくれ。もう少しだけ…!』
 ラズリの脳裏に呼びかける、本来の白竜の声。
 彼、白竜の方はこんな逼迫した状況下にあっても、実に泰然と落ち着き払っていた。
 『それはわしのせいでも、憑依時間が超過したせいでもない。…おまえ自身の問題だ。本体に何かあったのだろうな。これ以上の他生物への憑依、別個体への意識の逗留は元来のおまえの命を危険にさらすだけだ。もういい。観念していったん戻れ』
 「う…う…。うわああああああっ」
 「ラズリ? ラズリィィ…!」
 一段と声を張り上げ、断末魔の叫びのような竜の咆哮が辺り一面を轟かすように響き渡った後――。
 しばらく竜は無言のまま頭を抱えるようにしてうずくまっていたが、やがてむっくりと身を起こした。
 それから、先の異変などまったくもって知らぬ存ぜぬ何事もなくとばかりに、再び元のようにぴんと姿勢を正してティーナと対面する。
 『娘よ…』
 互いにしばらく顔を合わせてから、やや間が空き、ティーナの脳裏に今度は直接呼びかけられる声があった。
 「だ、誰…? ラズリじゃ…ない?」
 どこからそんなものが聞こえてきたのかと不思議に思ったが、正面を向いて自分をじっと見据える竜の赤い兎の目が、何やら意味ありげに語りかけているかのようでもあった。
 それに気づいたティーナは、竜に向かっておずおずとうかがうような目つきで上目づかいに言葉なく訊ねてみると、即座に彼は呼応し、深く静かにうなずく。
 『そうとも。先は小僧がかけた憑依の術中下にいたが、これが元来の我の姿よ。まさかここでそなたと見(まみ)えるとは思いもよらなかったが…。まあ、顔見せ程度ということでも、会えてよかったな』
 なるほど…な。その目の色、確かに覚えがある。
 竜はまじまじとティーナの目の色をうかがいながら、一人合点がいったというように、こくりとうなずいてみせた。
 深い深い、藍の色。空の蒼を映した海の色を、そのまた濃くしたかのような色調に、白竜はどこか懐かしい風景が重なるような気がしたのだった。
 「あの、ラズリはどこに? 何があったのですか? 彼はあなたの中からどこに行ってしまったのでしょうか?」
 まっさきに気になっていたことを問いかけると、竜は静かに、けれどさらりと何でもない風に彼女に答えをよこした。
 『そう心配するな。単に時間切れで小僧は本体に帰っただけだ』
 「本当…ですか?」
 彼女を気遣ってのことか、白竜は真相を伏せて軽く説明したとたん、目に見えてホッと安堵の表情を浮かべるティーナだった。
 『ああ。…まったく。この我に憑依を試みようなどと、行く末恐ろしい若造だな。王の血筋に連なる者は皆、身の丈に合った謙り方を元来その身に備わっていると思っておったが…。あれはかなりその方面において、歴代のもろもろな輩と異なり、だいぶ逸脱しておると見える』
 「そ、それは…。ど、どうもす、すみませんでした…。何分そちらさまに対する配慮が行き届かなくて…。本当に重ね重ね失礼をいたしました」
 けして自分が悪いわけではないというのに、思わずへこりと頭を下げて深く詫びを入れてしまうティーナ。
 そんな彼女の素直で従順な態度が竜にはすこぶる印象よかったと見える。
 急にからからと高らかに声を上げたかと思うと『よいよい。そなたのせいではないぞ』と、めったに表に出すことはない、やさしい声音で軽くとりなし、なんとも機嫌よく接するのだった。
 「ティーナ? いったい誰と話してるんだ?」
 ディルナスは心配げにティーナの肩を自分の方に引き寄せ、彼女と顔を合わせながら問いかけた。
 傍目からは彼女がいきなり誰かに向かって話しかけたり、頭を下げて謝ったりと、何かよからぬ電波を受けたまま一人芝居を続けているような光景として目に映ったらしい。
 『ほ…お。そなた』
 白竜はティーナの背後にぴったりと控えているディルナスの姿に目を留め、興味深げにしげしげと彼を眺め回した。
 「な、なんだ…。声が頭に」
 『その身にまとう気の禍々しさ…。なんともはや憐れな…。そなた、ついに闇の力に与する者と成り果てたか』
 「……! どういう意味だ。何を言って…?」
 一方的に言い放つ竜にディルナスがうろたえ気味に返したとたん、また唐突にティーナたちの均衡を打ち破る声が響いた。
 「りゅーう! ねえ、しろい、りゅーう! どうして、そんなとこにいるのーお?」
 「セシルさま…! どうか、後生ですからご一緒にお戻りくださいませ。竜に近づいては危のうございます。セシルさま…!」
 何やら庭の辺りから、聞き覚えのあるかわいらしい甲高い声がしだし、急にがやがやと騒々しくなった。
 何事が起きたのかとティーナがふと屋根から下を見下ろすと、わずかばかりの人影がわらわらと屋敷から出てきた光景が視界に飛び込んでくる。
 それは竜を避け、地下室に避難していたはずのセシリア公妃。そして彼女を必死になって連れ戻そうとしている侍女のマージをはじめとした、主人不在時の屋敷の総責任者でも執事以下、数名の使用人たちの姿だったのだ。
 「りゅう、りゅーう! やっと、いらしてくださったの、ねえ? こんどこそ、わたくしをむかえにきてくださったのーお?」
 「セシルさま…! おやめくださいませっ」
 『まさかあれが、彼女か…?』
 ふと視線をずらし、下方を眺め入った竜は幼き少女のような物言いで自分に呼びかける小さな影に、驚き混じりの声を発した。
 『なんともはや…いたわしい。あれほど光輝かんばかりに美しく強かった波動が…わずかばかりにしか感じられぬとは…。あの時は我らの力をもってしても、救えずにすまないことをしたな』
 セシリア公妃に対してなのだろうか。何やら意味深なことを白竜が口走ったその時。
 今度もまた何の前触れもなく、すいーっと上空に黒竜がその姿を出現させるのだった。
 『さあ、おまえ。もういいだろう。我らもそろそろ戻ろうぞ。人の地にこう長くとどまりすぎては、いたずらに騒ぎを大きくさせるだけだからな』
 黒竜の呼びかけにハッと我に返った白竜は、これ以上の長居は無用とばかりに姿勢を正し、背の翼を大きく開き、飛翔する準備を整える。
 『同意。……では、これにて御免』
 「待って、待ってください」
 白竜の出立を思わず引きとめてしまうティーナ。
 そんな彼女に対し、彼はふっと振り返り、そっと目を細めてやさしい柔和な表情を浮かべたが、すぐにまたきりりと口元を引き結び、ばさりとその背の翼をはためかせるのだった。
 『――娘。よくよく覚えておくがいい。時、いつか満ちたりる。その際、我らはもう一度こうして直に見(まみ)えるだろう。遥か古(いにしえ)の時代、互いに交わした形のない誓約の証を、新たにし、そしてさらに強固なものとするためにな』
 それだけを言い残すと、白竜は何のためらいもなく、あっという間に黒竜のそばまで上昇して行った。
 そしてめでたく、二頭が上空にて並び揃ったところで彼らの姿は――。
 すぐに遠い空の彼方へと小さな点になって、ティーナたちの前から消え去っててしまうのだった。
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とうとう再会!
とうとうティーナとラズリの再会ですね!
二人のやり取りがめちゃめちゃ可愛くて、こそばゆい感じが素敵です☆ラズリがいつになく素直で、不器用そうにあれやこれやと言っているくせにそういう殺し文句を言っちゃいますか! 
喧嘩したり泣いたり笑ったりのティーナも可愛い! 最後にティーナ、やってしまいましたね。きっとラズリの姿が竜だったからできちゃったのでしょうけど、後から改めて思い起こして赤面しそうですね。

残り2パートだそうですが、転の章ラストにしてめちゃめちゃ力の入ったものになっていますね。
それでは続きを楽しみにしています!
いさな 2007/04/30(Mon)18:01:59 編集
萌えていただけましたか!(嬉)
 わーい(^O^)
 いさなさん、コメント入れてくださいましてありがとうございます~♪
 二人を会わせると、どーしてもラズリがティーナに意地悪ばっかり言うので、どうしたもんかな~と思っていますが(^^ゞ 
 高校生というよりは中学生なのかな;
 ラズリとティーナの間柄って。
 なんかティーナを見ていると、ふわふわでかわいい生き物がこちゃこちゃやっているから、ついつい嗜虐的な気持ちになるのかもしれません…。
 うへへ…。(うわ、黒すぎ;)
 何にせよ、二人が互いを案じたり、いたわり合いを見せたりしながら、大切な相手と強く強く惹かれあっていく姿を書いていけたらいいなと思います♪

 …って;

 それだとアガシに失恋フラグが立ってしまいましたか…!

 でも個人的ハッピーエンドは若き王様ラズリの側近中の側近として、腕の立つ王室付きの専任魔法使いになった切れ者アガシと、薬草にかけてはエキスパート、治癒の魔法だったら何でもござれの薬師ティーナの友情トライアングルだったりするんですが(^^ゞ
 
 今回はあまりにも力を込めすぎたせいか、ちょっと気持ちがもっていかれた感じがして、あとの残りになかなかとりかかれていなかったりもしますが、これからまたそちらに専念したいと思います…!
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